ビタミンのほとんどは自分の体内では生成できないから、外部から摂取しないといけない――そう語るアカツカ率いるSouth Penguinが前作『Y』をリリースしてからの2年半は、まさに外部から栄養を摂取する日々だったのかもしれない。ゲスの極み乙女。の川谷絵音や亀田興毅とのTV出演、若手漫才コンビのまんじゅう大帝国や、町田康のバンド〈汝、我が民に非ズ〉との異色の共演を果たしたライブイベントなど、本人ですら予想できなかった近年の活動はひとえに、〈音楽を媒介にして他人と繋がりたいというアカツカのバイタリティーと、軽薄そうに見えて、どこか憎めないキャラクターによるものだろう。
ラーメン二郎から乃木坂46まで、好きなものには一途な面もあるアカツカだが、前作に引き続き盟友Dos Monosのメンバーが参加し、録音/ミックス/プロデュースに岡田拓郎を迎えた新作『R』でも、トーキング・ヘッズを始めとするミュージシャンたちにオマージュを捧げつつ、アグレッシブな曲はよりアグレッシブに、メロウな曲はよりメロウに、自分のものとしてしっかりと血肉化している。TBSラジオのヘビーリスナーだというアカツカはこの日、インタビューが終わるとサングラスをかけ、宇多丸司会の番組「アフター6ジャンクション」への出演を果たした。その狂気の愛は少しずつ、しかし確実に伝染しつつある。
アカツカの恩人、川谷絵音
――まず訊きたいのは、「モルック」(アカツカが川谷絵音&亀田興毅と出演したTV番組「さらば青春の光のモルック勝ったら10万円!」)についてですよ。
「掘るところが独特ですね(笑)」
――でもニューアルバムの1曲目“vitamin”のタイトルも、川谷さんのアイデアなんですよね?
「ああ、確かにそうです。時期的にはたぶん『bubbles / mad love』(2020年)っていうシングルをPヴァインから出したタイミングだったんですけど、その曲がSpotifyのプレイリストに入っていて、それで川谷さんが知ってくれたらしくて。そこから遡って聴いたり、インタビューとかを読んで興味を持ってくれたみたいです。TwitterとかInstagramでも紹介してくれて、割とすぐに川谷さんとSNSのDMでやりとりして、会おうということになって。あれからなんだかんだ1年半ぐらい経ちましたけど、結構頻繁に会ってますね。
それで「モルック」への出演とか、普通のインディー界隈でバンドをやっていたらあんまり体験できないようなことをやらせていただけています。しかも僕は音楽だけじゃなくて、〈なんでもいいからとにかく売れたい〉っていう自己顕示欲の塊なので(笑)。でもあまり悪いイメージを持たれずに売れたい、炎上商法はしたくないっていう。なので売れなきゃできないようなことや、TVのお仕事だったりをやらせていただけることはとても嬉しいですね。川谷さんにおんぶに抱っこですが(笑)、リスペクトしていますし、本当に感謝しています。恩人ですね」
――それで、去年開催したライブイベントのタイトルも〈vitamin〉だったんですよね。これって読み方はヴァイタミン? ビタミン?
「どっちでもいいんですけどね(笑)。曲の中ではヴァイタミンと歌ってますけど、もともとは川谷さんとラジオで話しているときに、〈アメリカ読みがヴァイタミンで、イギリス読みがビタミンらしいよ〉という話を聞いたんです。そのなかで〈ヴァイタミンのほうがカッコよくない? ヴァイタミンって曲を作りなよ〉みたいな話になって、〈ハ〜イ、作りま〜す!〉みたいな感じで安請け合いして(笑)。でも実際、俺あんまり歌詞を書いたり曲名を決めたりするのが好きじゃなくて。曲だけを作って、歌詞が無いまま止まってるデモとかが結構あるんですけど、せっかくそういうふうに言ってもらったし、じゃあヴァイタミンっていうのをテーマにしようと思って作りましたね」
――電気グルーヴにも『VITAMIN(ビタミン)』(93年)というアルバムがあるから、どっちなのかなと思って。
「そうですね、まさに。カンにも“Vitamin C”(72年)って曲があるじゃないですか。だからちょっとそっちの、ドイツの空気感も纏った(笑)。そういう意味でも、カッコイイ言葉だなと思いましたね」
――じゃあ、もともとイベントよりも曲が先にあったんですか?
「いや、イベントが先ですね。曲を作る前にライブハウスからイベントの誘いがあって。〈好きなバンドとか、呼びたい人とかいませんか?〉って訊かれたんですけど、最初は〈いません〉と言って断ってたんですよ。でも〈どうしてもやりたい〉と言ってくれたんで、〈まんじゅう大帝国っていう芸人さんを呼びたい〉と言ったら、本当にブッキングしてくださったんです。
じゃあもう出るしかないし、イベントのタイトルを決めなきゃなっていうときにvitaminについて調べたら、自分の体内だけだと生成できなくて、外部から摂取しないといけない栄養らしくて。だから〈まったく違うエッセンスのものを外から呼んでひとつのイベントにする、自分たちにないものを持ってきてもらう〉という意味で良いかなと思ってタイトルにしたんです。だけど、川谷さんと約束したし、曲も作るかってことで。そのイベントは2か月にまたがってやったんですけど、その2か月の間に曲を作りましたね。
だから2回目のときに、この曲を初披露しました。結局このイベントがきっかけで、まんじゅう大帝国とはだいぶ仲良くなって、もう毎月一回は飲んでるぐらい。彼らも俺らの曲を出囃子に使ってくれていて、すごく良い関係ができたんで、次にやるときはもうちょっと前もって準備して、綿密にひとつのショーとして組めるといいですね。そういう異文化の、ミュージシャンだけじゃない友達ができたのは良かったなと思います」