〈NOTHING NEW〉と〈CHANGING SAME〉

 死後三年を経て発表されたギル・スコット・ヘロンの『Nothing New』は、遺作となったアルバムのタイトル『We’re New Here』と関係があることを示唆しているのだろうか。いろんな側面をもち、いろんな評価を受けた人だが、ギル・スコット・ヘロンは、ストリートの詩人だった。ピニエロ、ピリ・トーマス、さらに昨年急死したアミリ・バラカ、つまり、リロイ・ジョーンズに並ぶ詩人だった。

GIL SCOTT-HERON 『Nothing New』 XL/HOSTESS(2014)

 代表作のひとつ『Small Talk At 125th And Lennox』では、コンガ奏者二人とダンサーを加えた朗読が披露される。125thとレノックスはスパニッシュハーレムだ。ラテンとブラックがアフリカで結びつく場所だ。このアルバムの冒頭、自己紹介とバンドを丁寧に紹介するギルの言葉が残されている。おそらく、彼にとってそこはある種の境界だったのだろう。境界にたった彼が聴衆に向けられた最初の詩/言葉は、〈The revolution will not be televised〉だった。

 ルンバというよりは、ヴードゥー/あるいはカンドンブレを思わせるコンガのリズムにのせて70年代のストリートの詩人は、アメリカで生き残るのは誰だ!?と言葉を投げかける。ヴァイブが聞き手を動かし、聞き手の熱がギルのライムを煽る、そんな様が記録されたまれなアルバムだ。

2010年作『I’m New Here』収録曲“I’ll Take Care Of You”

 音楽は、彼の言葉に相応しい聴衆を招く装置のようなものだっただろう。バド・パウエルのメロディをそのままコラージュして朗読したアミリ・バラカにとってもルンバをバックに朗読したピリ・トーマス、ピニエロにとっても音楽は、ストリートにメッセージを送り込む流体だった。偶然遺作となった『We’re New Here』ではダブステップがギルの言葉をコラージュした。死後、今我々の手元に3年を経て届いたギルの言葉を届ける音楽は、ストリートに正しくメッセージを届けることができるのだろうか。『Small Talk At 125th And Lennox』の途中、ギルは突然、ピアノでブルースを歌う。『Nothing New』はChanging Sameのもう一つの隠語なのかもしれない。