この20年における最重要インディー・レーベルをひとつ選ぶなら、僕は迷わずXLレコーディングスを挙げるだろう。プロディジーが90年代のレイヴ・ミュージック期を牽引したあと、バッドリー・ドローン・ボーイやホワイト・ストライプスの成功を皮切りに、レディオヘッドやシガー・ロスといった大物も合流。デヴェンドラ・バンハート、M.I.A.やヴァンパイア・ウィークエンドといった〈時代の顔〉を送り出し、アデルの働きで商業的にも成功しながら、近年もアルカやキング・クルール、ケイトラナダといった先鋭的な才能を輩出しているほか、2009年設立の傘下レーベル、ヤング・タークスもXXやFKAツイッグスといった人気アクトを輩出している。

そんなXLの創始者であるリチャード・ラッセルは、90年代にDJとして活動し、近年はデーモン・アルバーンの相棒役を務めるなど、ミュージシャンとしての顔も併せ持つ人物だ。その彼がコラボ・プロジェクト=エヴリシング・イズ・レコーデッド(以下EIR)を立ち上げ、最初のアルバム『Everything Is Recorded By Richard Russell』を先日リリースした。これが様々な文脈がクロスオーヴァーした、実に聴き応えのある作品になっている。

まず目を見張るのは、参加アーティストの顔ぶれだろう。サンファやイベイー、カマシ・ワシントンといったXL/ヤング・タークスの看板たちを筆頭に、シド(ジ・インターネット)やUKラッパーのギグスといった旬のアーティストや、ピーター・ガブリエルやマーク・ロンソンといった新旧の大物もプレイしており、しまいにはクインシー・ジョーンズやブライアン・イーノまで関与している。しかし、その豪華なイメージとは裏腹に、ソウルとレゲエ/ダブ、ゴスペルを基調としたEIRの音楽性は、パーソナルな響きと温もりに満ちたものだ。

2013年にギラン・バレー症候群という神経系の病気を患ったリチャードは、長期の入院を経て、本作のレコーディング・セッションに着手したそうで、いわゆるミドルエイジ・クライシスの影も本作に散らつかせている。そんな彼は以前、ギル・スコット=ヘロンの『I'm New Here』(2010年)と、ボビー・ウーマックの『The Bravest Man In The Universe』(2012年)という、ソウルの大家が放った2枚の〈遺作〉をプロデュースしていた。かつてビートルズやデヴィッド・ボウイもそうだったように、イギリスにはアメリカ発の黒人音楽に憧れてきた長い歴史がある。さらにXLは、グライムやオッド・フューチャーなど、ブラック・ミュージックの新しい動きをいち早くサポートしてきた実績もある(最近ではフランク・オーシャン『Blonde』のフィジカル版もリリースしている)。こういった文脈が幾重にも絡まり合うことで、アルバムの音を豊かにしている印象だ。

リチャードはPigeons & Planesのインタヴューで、「2014年の終わりにディアンジェロがアルバムを発表したとき、水門が開いたように感じた」と語っていた。古いレコードのサンプリングを駆使した本作は、北米におけるポップ・ミュージックの活況を見据えつつ、イギリスから新しい未来を提示しているようにも映る。前置きが長くなったが、このインタヴューを読めば、XLが成功を収め、今もシーンの最前線に立ち続ける理由も掴めるだろう。とにかく音楽が好きで好きでたまらない、そんな愛らしい饒舌ぶりである。

EVERYTHING IS RECORDED Everything Is Recorded By Richard Russell XL/BEAT(2018)

  

音楽は〈どうやって孤独感に折り合いをつけるのか?〉に答えを出してくれる

――実際のところ、今回のアルバムはどういった作品をめざしたのでしょう?

「作品のヴィジョンは音楽を作っていくうちに浮かび上がってきたんだ。それに実際、〈場〉から生まれてきたものもあった。というのも、ギル・スコット=ヘロンやボビー・ウーマックとのアルバム制作や、デーモン・アルバーンと仕事するプロセスのなかで、〈自分にはスタジオが必要だ〉と思うようになったんだ。それで、かねてから思い描いてきたスタジオを作ることにした」

――ロンドンに設立されたカッパー・ハウスのことですよね。そこにミュージシャンが出入りするようになったと。

「そう。そこで最初に作ったアルバムが(リチャードがプロデュースした)イベイーの1枚目『Ibeyi』(2015年)だった。そのレコーディングを終えたあと、ぼくたちは即興性の高い……ほどんどジャズのようなプロセスというか、様々な人々がスタジオにやって来ては音楽を演奏するという、そういうやり方で音楽をプレイするようになった。その時点で、アルバムを作るというプランはなかったんだけどね。いろんなミュージシャンと即興的に音楽を作ること、それは目的を共にした集団としての社交的なプロセスでもあった。その一方で、自分だけで作っていくプロセス――様々なサンプルやサウンド、質感にひとりで取り組む側面もあった。それら2つのプロセスを通じて、一貫性のある作品になりそうな〈何か〉が自分のなかで浮上してきたんだ」

――多くのアーティストが出入りしているにも関わらず、アルバムからは内省的なムードも強く感じました。

「自分には内省的な側面があると思うけど、社交的なパーソナリティーも備わっている。で、アルバムもそういうものになったわけだね。みんな誰だって相反する面を抱えているし、人間というのは〈歩く矛盾〉なわけでさ」

――いい表現ですね(笑)。

「たしかに孤独感は、このアルバムを通じて浮かび上がっていると思う。自分にとって大きな意味を持つ音楽のなかで表現されてきたテーマでもあるしね。とりわけ、70年代に生まれたソウル・レコードはそういうものが多い。カーティス・メイフィールド、ギル・スコット=ヘロンにスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、それにロバート・ワイアット。彼らの作品はどれも温かい響きを持っていて、今回のアルバムに込められたフィーリングにも影響を与えている。でも一方で、このレコードの持つ社交的な側面によって、そういった孤独感をもっと気分を高揚させるような場所へとシフトさせることもできるんじゃないかな。〈どうやって孤独感に折り合いをつけるのか?〉――音楽というのは、その問いに対する答えを出してくれるもののひとつだと思っているよ」

――EIRには世代やキャリアの異なるミュージシャンが多数参加していますが、彼らはどのような基準で選ばれたのでしょう?

「ギル・スコット=ヘロンと一緒にアルバムを制作していた時に、〈ジェイミーXXにこのアルバムをリミックスしてもらったらどうだろう?〉というアイデアが浮かんだんだ。そのアイデアをギルに提案したところ、彼も乗り気で受け入れてくれた」

――『We're New Here』(2011年)のことですよね。

「そう。ギルという〈賢人〉との交流を通じて、僕は多くを学んだし、あれは本当に人生を変えられるような経験だった。でも一方で、僕はジェイミーともコミュニケーションしていたわけだ。ギルは自分より20歳くらい年上で、逆にジェイミーは20歳近く若い。そして、僕はその両者と密なコミュニケーションを取ることができる。その事実はかなり貴重なことだと思えてきたんだ。素晴らしい経験を持つヴェテランと、まだ若いミュージシャンたちの両方と一緒に仕事するというのは、今回のアルバムも一緒だよね。そうやって願わくば、プロジェクトに参加してくれたどの人間にとっても有益な経験にしたかった」

ギル・スコット=ヘロン&ジェイミーXXの2011年作『We're New Here』収録曲“NY Is Killing Me”
 

――異なる世代/音楽性の橋渡しができるのは、DJの資質とレーベル・オーナーとしての信頼感も大きいんでしょうね。

「それにきっと、先天的に備わった性質の一部なのかもしれない。生まれついての運命がコネクターだったというか(笑)。努力して繋ぎ役になろうとしてきたわけではないけど、とにかく自分はそういう人間なんだと思う。例えば画家というのは、どの色を組み合わせれば上手くいくのか、本能的に理解しているわけだよね。そういったセンスを通じて彼らは自己表現している。そういうふうに、〈これとこれはフィットするだろう〉みたいな発想は、僕がレコードを作る際のアプローチにも間違いなくあるね」

 

ソウルとR&Bはいつも僕のルーツであり続けてきた

――このEIRで、個人的に感銘を受けたのはあなたのプロダクション・スキルです。ドラムやシンセの音色も素晴らしいし、これだけ多くのミュージシャンが参加していながら、アルバムに統一感があるのも特筆すべきポイントだと思います。

「そうだね。ぼくのプロダクションには特有のサウンドがあるんだと思う。それは〈人の声〉に似ているね。別に努力しなくてもその声が出せるし、誰がどうやったって自分自身の声に帰結していく。だから、そのサウンドについて僕自身が分析するのは難しいね。それってシンガーに対して、自分の歌声を分析してくださいと質問しているようなものだから」

――たしかに(笑)。

「だから説明するのは難しいけど、80年代半ばのヒップホップ・レコードを山ほど聴きまくった経験は、自分のサウンドにも影響を与えていると思う。あの頃のヒップホップはまだかなりローファイで、針飛びのノイズが混じるようなものだったからね。当時のレゲエやダンスホールのレコードもそう。まずベース・サウンドがあって、その上にローファイなサウンドがのっていたというか。過剰にプロデュースされたところは一切なしで、そのぶん曲にたっぷりと空間が残されていた。そういった隙間、ローファイ性、そしてベースの低音こそ、ぼくにとっては重要だったわけだ」

――そうやって80年代にヒップホップやダンス・ミュージックのレコードを買い漁ったあと、あなたは90年代のレイヴ・シーンで活躍するようになるわけですが、DJカルチャーで培った経験は、EIRにどのように反映されていると思いますか?

「DJという営みは、ぼくにとって大きなルーツだと言えるね。それこそ、自分のベッドルームにこもってヒップホップのレコード相手に延々と何時間も過ごしたものだよ。DJとしてギグをやったこともあるけど、自分はいわゆるベッドルームDJに近かった。これはとても重要なポイントなんだ。もちろんDJには、技術的な側面や肉体的なプロセスもあるけど、〈どんなレコードをかけるか〉というキュレーションの側面も存在するわけだよね。ぼくたちがDJを始めた頃、インターネットはまだ存在しなかった。その当時、DJというのは音楽への情熱を人々とシェアするための数少ない手段のひとつだったんだ」

――ええ。

「そう考えるとやっぱり、自分自身のレコード・コレクションが、このアルバムの一部になっていると思う。サンプル元もそうだし、ギル・スコット=ヘロンのカヴァー(“Cane”)も入っているしね。それに、10代の自分がもっとも愛したアーティストのひとり、スクリッティ・ポリッティのグリーン・ガートサイドに参加してもらったのもそう。(グリーンが参加した収録曲)“Bloodshot Red Eyes”に、あのキーボードの音色を入れるというのは、僕からすれば究極のファンタジーだった。今回のアルバムは、自分の抱いてきた夢を現実のものにしようという側面もあるんだろうね」

――実際、EIRでは様々なサウンドがブレンドされていますが、音楽性の基盤となっているのは広義のソウル・ミュージックだと思います。そういった音楽に惹かれるようになった原体験について教えてください。

「まず、かつてのロンドンにはとあるシーンが存在したんだ。それは〈レア・グルーヴ〉と呼ばれていた。その言葉は、平たく言えば70年代のソウル・レコードのことを指していたんだよ。それで、ぼくが初めてクラブに通い出した86〜87年くらいに、ヒップホップやレゲエをプレイしていたDJたちは、それらの音楽と一緒にソウルのレコードもかけていた。当時のロンドンにいた若いDJたちは、そうやって古い音楽を好んでかけていて、ぼくが初めてギルの音楽を耳にしたのも(リアルタイムではなくて)そうした文脈からだったんだよ。彼らDJたちは、そうやって古いレコードを〈今〉へ持ち出してきたわけだ」

――そうですよね。

「だから、彼らは当時のレコードで使われていたサンプリングを探っていき、それによってその元ネタのレコードにまで遡っていったわけだし、そう思えば当時の彼らはリスナーの教育もしてくれていたんだよね。見方を変えれば、DJたちは古い音楽をキュレートしていたとも言える。あの当時は、ジャイルズ・ピーターソンやノーマン・ジェイといった今でも重要な役割を担っているDJたちや、ソウルIIソウルのような面々が大活躍していた。その時点で、70年代のソウルはすでに古いものだったけど、当時のぼくは〈新しい音楽〉として深い共感を覚えたものだ。そういう出会いがあったからこそ、クラシックなソウルが人生を通じて聴き続ける音楽になったわけさ」

――ええ。

「それとは別に、80年代にもモダンなソウル・ミュージックは存在していて、僕はそちらもよく聴いていた。例えば、ジャム&ルイスは今回のアルバムにも大きな影響を与えているし、先ほども名前を挙げたスクリッティ・ポリッティも、僕からすれば〈ソウルに影響されたポップ・ミュージック〉なわけで、どちらも同じくらい重要だったんだ。それから90年代に入り、そして現在に至るまで、ソウルとR&Bはいつも僕のルーツであり続けてきたと思う。実際、アデルの歌声を初めて聴いた時もそんなふうに感じたものだよ」

 

グライムはアメリカのラップと対等に渡り合っている

――キース・ハドソンのレゲエをサンプリングし、ギグスがラップしている“Wet Looking Road”は、70年代のレゲエから2010年代のヒップホップやグライムまで連なる、UKとジャマイカの相互関係の歴史を繋ごうとしているようにも映りました。

「キース・ハドソンはいわゆるアウトサイダーで、当時のレゲエ・アーティストとはかなり違っていたからマイナーな存在だった。彼のやっていたことは、当時の人々の理解を越えていたからね。で、僕はあの曲のコーラスをループさせて、それからヴァースも切り刻んでみた。そうするうちに、ギグスがこのサンプリングを気に入ってくれそうな予感がしてきて、聴かせてみたら実際にそうなったよ。なぜ上手くいったのかは、改めて振り返れば明らかだよね。サンプル音源はジャマイカ産だし、ギグスにはジャマイカの血が流れているわけだから。かと言って、必ずしもそのコネクションが、このサンプリングの意図でもなかったんだよ。まずは、サンプリングしたときどう響くか、そこがもっとも大事だと思うから」

――XLの歴史を踏まえても、プロディジーからディジー・ラスカル、ギグスまでの流れは一本の線で繋げられると思います。あなたは早くからグライムに注目し、その影響はEIRにも反映されているように思いますが、どうでしょう?

「まず、UK固有の音楽ジャンルがずっと育まれてきたわけだよね。70年代でいえばラヴァーズ・ロックやスウィート・ソウルがそうだし、それから90年代のレイヴ・ミュージック――ここから僕自身も関わるようになったわけだけど、さらにジャングル、ドラムンベース、ガラージと続き、そしてグライムへと至った。これらのジャンルはどれもカリビアン音楽とアメリカ音楽から影響を取り入れていて、そのうえでブリティッシュなものを作り出している。きっと僕自身も、そのなかの一部なんだろう」

――たしかに。

「で、グライムというのはしばらくの間、プロダクションにばかり注目が集まっていたんだよ。ところが今では、グライムはサウンド面だけではなくヴォーカル音楽としても注目を集めるようになった。それはエキサイティングな展開だね」

――ギグスやスケプタ、ストームジーといった面々がドレイクのアルバムに参加したりなど、グライムが国際的に浸透している感じもしますしね。

「そうした状況はいわゆる〈グライム第一波〉、僕らXLがディジー・ラスカルやワイリーと仕事しはじめた時はまだ起きていなかった。でも、今やこのサウンドは、イギリスにおいてアメリカのラップ・ミュージックと対等に渡り合うようになっている。最近のイギリスのオーディエンスは、国内産アクトを強くサポートしているからね。それにある意味、XLがグライムの人気を押し広げたとも言えるんじゃないかな? ディジーのアルバム『Boy In Da Corner』(2003年)はこれまでのブリティッシュ・アクトによるデビュー作のなかでも指折りのグレイトな一枚、マスターピースのひとつだと心から思っているよ」

――また、サンファとカーティス・メイフィールドの疑似デュエットが実現した“Close But Not Quite”は、本作のハイライトだと思います。

「あのアイデアが出てきたのは、サンファの“(No One Knows Me)Like The Piano”という曲の、最初にレコーディングしたヴァージョンを聴いた時だった。彼の歌声に浸っていると、カーティス・メイフィールドの言葉が聞こえてきたんだ、あの〈Of ーThese Words I've Tried To Recite / They Are Close, But Not Quite〉というフレーズがね※」

 

――サンファは2017年のマーキュリー・プライズを受賞して、今のUKを代表するソウル・シンガーに登りつめた印象ですが、どんなところに惹かれますか?

「彼はスムーズにそつなく歌うタイプではなく、どこか不完全なところがあって、そこが実に美しいんだよ。僕のなかでカーティスと繋がったのも、そういう未完成な部分があるからだと思う。そこであの曲を使ってサンプルを作り、そこにドラムをのせたトラックを聴かせてみたら、サンファもそのトラックを気に入り、即興で歌ってくれたんだ」

――サンファと並んで、イベイーの歌声がアルバムの柱となっている印象です。彼女たちの作品でプロデューサーも務めたあなたは、この姉妹のどんなところに魅力を感じているのでしょう?

「あの深いスピリチュアリティーだね。彼女たちはまだ若いのに、スピリットは古風で成熟していて、ヴェテランのような精神性を生まれつき備えている。それに、僕のなかではシンガーというより、バンドをプロデュースしている感覚に近いんだ。イベイーは自分たちのサウンドを持っているからね。まずヴォーカル・ハーモニーがあって、それにナオミはカホーンやバタといったパーカッションを叩き、リサはキーボード/ピアノを弾いている。やろうと思えば、それだけでアルバムを1枚作ることもできるだろう。でも彼女たちは、サンプリングやエレクトロニクス、シンセサイザーにも強い関心を抱いている。だから、一緒にスタジオに入ると探究してみたい事柄がいくらでも出てくるし、彼女たちのほうも、スタジオで作業するプロセスをとても楽しんでくれるんだ」

 

カマシ・ワシントンは本物のリーダー、とんでもない存在

――シドがサンファと一緒に歌う“Show Love”も印象的なナンバーです。彼女の参加はどういった経緯で実現したのでしょう? 

「まずはもともと、ジ・インターネットの『Ego Death』(2015年)が大好きでね。生楽器の組み合わせ方も秀逸だし、ジャズやソウルの影響も取り入れたファンタスティックなアルバムだと思う。それに僕は、彼女がオッド・フューチャーでDJをやっていた頃からの知り合いだった。XLは彼らの初期に一緒に仕事したことがあって、タイラー・ザ・クリエイターのアルバム(2011年作『Goblin』)を出したりしていたから。あのグループは強烈な個性派集団だったわけだけど、そのなかでシドは〈落ち着いた存在〉だったというか」

――はいはい(笑)。

「“Show Love”に関してはビートが出来上がっていたから、ツアーでロンドンを訪れたときに聴かせたところ、彼女も気に入ってくれた。ただ、サンファは最初の時点ではあの曲に絡んでなかったんだよ。ただ、先に録ったシドのパートが素晴らしい出来だったから、それでサンファにも〈試しに歌ってみて〉とお願いしたんだ。その結果、あの両者がデュエットすることになった。とてもラヴリーな曲になったし、あの二人のコンビネーションは本当に美しいと思うよ」

――ジ・インターネットと同じく、LAのシーンが生んだカマシ・ワシントンの参加も大きいですよね。彼がヤング・タークスに移籍したと聞いたときは驚きました。

「彼がどれだけ重要な存在なのか、僕もようやく気付いてさ(笑)。もちろん、彼がブレインフィーダーから発表した『The Epic』(2015年)はよく聴いていた。さらにあの作品を知って以来、ジャズの世界でどれだけ面白いことが起きているのかを発見して、ジャズ・ミュージシャンによる音楽をたくさん聴くようになった。しばらくの間、〈ジャズから新しいものは何も聴こえてこない〉という状態が続いたわけだけど、今日のジャズは活気のあるシーンを形成しているよね。カマシはそんな新しいムーヴメントのリーダーだと思うし、アルバムに迎えられたのは素晴らしいことだよ」

――カマシとは、どのように知り合ったんですか?

「イベイーがツアー中にアメリカで彼と知り合ってね。彼女たちが(ロンドンの)スタジオに戻ってきた時に〈カマシ・ワシントンって聴いたことある?〉と訊いてきたんだ。〈ああ、知ってるよ〉と答えたら、〈素晴らしいから絶対に会わないと!〉と言われてね。それで会ってみたら、彼はもう本物のリーダーというのか……とんでもない存在だったよ。というわけで、彼がロンドンを訪れた際にスタジオにも招待したんだ。そこで彼にアルバムをプレイバックしたところ、“She Said”と“Mountains Of Gold”を選んでプレイしてくれた。彼があの2曲で聴かせてくれたサックス・プレイは、とにかくセンセーショナルだったよ」

――その“Mountains Of Gold”も本作のハイライトですよね。ここでは、グレイス・ジョーンズの“Nightclubbing”が効果的にサンプリングされています。

「“Nightclubbing”は僕にとって、いろんな歴史が詰め込まれた曲なんだ。アイランド・レコードの創始者であるクリス・ブラックウェルがプロデュースした曲であり、スライ&ロビーが演奏を担当していたことから、レゲエのフィーリングも伴っている。それにあの曲はカヴァー・ヴァージョンで、オリジナルを歌っているのはイギー・ポップで、作曲したのはデヴィッド・ボウイだよね。それに、グレイス・ジョーンズ本人も先駆的なアーティストで、人種やジェンダーの見せ方を含めた彼女の自己演出は、インターネット以前の時代においてとても未来的だった。そういう歴史的な観点から言っても、このサンプリングはかなり強力だと思うけど、さっきも話したように、ただ単純に響きが良かったから使うことにしたんだ」

――同曲のミュージック・ビデオには、カマシやイベイー、サンファに加えて、大御所のクインシー・ジョーンズも参加しています。

「〈あの曲に参加している全員が、たまたま1日だけ揃ってLAにいるみたいだ〉と、ベン(・ベアーズワース/XLのマネージング・ディレクター)に教えてもらってね。さらに彼は、〈君もLAに渡って、彼らを撮影するべきだ〉と提案してきて、そこで僕も閃いたんだ。LAにはあれだけ音楽関係者が暮らしているわけだし、僕らのヒーローを撮影現場に招待してみるのはどうだろうって。それでさっそくリストを作ってみて、誰かがやって来るのを待っていたら、一人だけ現場に来てくれた。それがクインシー・ジョーンズだったんだ」

――まさかの(笑)。

「そのリストのなかで、他の誰よりも〈来るはずがないだろう〉と思っていたのが彼だったんだから驚いたよ。でも、クインシーは現場でも良いエネルギーを発していたし、やっぱりヒーローだったね。それに彼は魚座なんだよ。リー・ペリーやボビー・ウーマック、それにデーモン・アルバーンもそう。僕自身も魚座なんだけど、思えばたくさんの魚座たちと仕事してきたな」

 

僕たちは眼や耳を通じて〈今〉を撮影し、記憶を生み出している

――デーモンのソロ作『Everyday Robots』(2014年)に、あなたも共同プロデューサーとして大きく携わっていましたよね。ゴスペルの影響を感じさせる作風は、EIRとリンクする部分も少なくないように思います。

「確実にそうだね。このアルバムの大きなインスピレーション源だと思うよ。というのも、デーモンは恐れ知らずの作り手だからね。多作家でクリエイティヴだし、音楽を生み出す行為を大いに楽しんでもいる。デーモンからは本当にたくさんのレッスンを受けたし、とても感謝しているんだ。それに、今回のアルバムにおけるテーマのうちいくつかは、『Everyday Robots』の中で探究し始めたものだった。その始まりとなったのが、あのアルバムに入っている“Photographs(You Are Taking Now)”という曲で、タイトルにも付けられたフレーズは、僕が持ち込んだティモシー・リアリーのヴォイス・サンプルから取ったものだ。〈これは貴重な瞬間です。あなたが今こうして撮影している写真のことを意識しなさい〉というフレーズなんだけど、僕たちは自分の眼や耳を通じて〈今〉を撮影している、そうやって記憶を生み出しているわけだよね。『Everything Is Recorded』という作品もまた、それと同じテーマを探っているんだ」

――今は多くの人々が、自分の人生の何もかもを記録していますしね。

「ああ、そうだよね。新しい機械が色々とあるし、それらを使ってあらゆるものを記録している。でも同時に、僕らは昔から変わらない、同じ機械で記録を作ってもいるんだよ。眼、そして耳といった感覚器を通じてね」

――このプロジェクトは、今後どのように発展していく予定ですか?

「これからも続いていくし、もう次のレコーディングも始まっているんだ。そうやって作業を続けていくうちに、どこかの時点で新しい物語をクリエイトしたくなるであろうこともわかっているし、そうなったら音楽を選んで、それをレコーディングし、そのストーリーを語ると。まあ、とにかく続けるのみだよ」

 

『Everything Is Recorded By Richard Russell』 Pt.2
エヴリシング・イズ・レコーデッドが描く音楽地図―多岐に渡った参加ミュージシャンをプレイリストでお届け!