[緊急ワイド]JAZZ革命とは何か?
さまざまな革命の積み重ねによって果てしない進化を遂げてきたジャズ。今も昔も最高だからこそ、現代と同じく過去の音源も素晴らしいわけで……この機会に未知の名作に触れて、新たな扉を開いてみよう!

 〈JAZZとは革命である。JAZZという音楽の成立要因とその背景は革命の歴史である。楽譜による定理と楽理によるセオリーからの逸脱、情念に導かれた即興、魂の開放のための悦楽。根源にあるのは「自由への欲求」だ〉……そのように高く掲げられたコピーと共に山のようなジャズの名盤たちが改めて提示される。ジャズに革命を起こした名盤、ジャズ革命の旗手による実験作、ジャズ史に残る名盤を革命的な価格でリイシューするキャンペーンが〈JAZZ革命〉だ。このキャンペーンでは第1弾/第2弾それぞれ60タイトルずつ、合計120タイトルのアルバムが復刻される。さらに12月には〈JAZZ革命〉を銘打ったコンピが5作品リリースされる予定だ。

 まず、5月7日に復刻される第1弾は、フライング・ダッチマンとメインストリームという人気レーベルの音源をチョイス。フライング・ダッチマン発のものでは、ギル・スコット・ヘロンやガトー・バルビエリ、バーナード・パーディ、ロニー・リストン・スミスといった定番の名前から、ハロルド・アレキサンダー、リチャード“グルーヴ”ホームズらの名盤がラインナップ。一方のメインストリーム音源は、新規ベストが編まれたサラ・ヴォーンの8タイトルをはじめ、カーメン・マクレエの8タイトルなどが登場する。

 そして5月21日リリースの第2弾では、ドイツの名門エンヤ発の音源を復刻。チェット・ベイカーの6タイトルをはじめ、トミー・フラナガン、ケニー・バロン、マル・ウォルドロン、アビー・リンカーンらの多様な名品が届く。

 ここでは初心者にもそれ以外のリスナーにも満足できる作品を紹介すべく、全120作品の中から入口となりうるタイトルを選りすぐって紹介していこう。

 


SARAH VAUGHAN
復活した女王が新境地を切り拓いたメインストリーム時代……その名唱・名演を選りすぐった究極のベスト盤が登場!

 〈女性ジャズ・ヴォーカリスト御三家〉の一人として、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドと並び称されるサラ・ヴォーン。ニュージャージー出身、1924年生まれの彼女は、幼い頃からピアノを学んで教会で歌い、42年にアポロ・シアターの〈アマチュア・ナイト〉優勝をきっかけに歌手デビュー。47年に“It’s Magic”が初ヒットし、50年代にはエマーシーと契約して一躍ブレイクしている。60年代はポピュラー志向を抱えつつルーレットなどの諸レーベルを渡り歩き、契約がない不遇な時期を経て辿り着いたのが、かつてエマーシー代表を務めたボブ・シャッドのレーベル、メインストリームだった。

SARAH VAUGHAN 『Imagine Best Of Mainstream Years 1971-1974』 Solid(2025)

 このたびコンパイルされた『Imagine Best Of Mainstream Years 1971-1974』は、そんな新時代を迎えたメインストリームでのキャリアを網羅した最新ベスト盤だ。表題に冠された“Imagine”はもちろんジョン・レノンの同年曲をすぐに取り上げたリアルタイムなカヴァーで、メインストリームでの初作『A Time In My Life』(71年)に収録されていたもの。アーニー・ウィルキンス編曲の同作はニュー・ソウル時代に呼応した名盤の誉れ高い一作で、そこから今回のベストにも収録されたマーヴィン・ゲイ“Inner City Blues(Make Me Wanna Holler)”やボブ・ディラン“If Not For You”のカヴァーを聴けば、当時の彼女の越境志向も浮かんでくることだろう。この路線は、サイケなジャケの意欲作『Feelin’ Good』(72年)から選曲されたダスティ・スプリングフィールド“Just A Little Lovin’ Early In The Mornin’”、ギルバート・オサリバン“Alone Again (Naturally)”、カーペンターズ“Rainy Days And Mondays”、ビー・ジーズ“Run To Me”、ダニー・ハサウェイ“Take A Love Song”といった名カヴァーたちでも楽しめる。

 一方で、フランスの巨星ミシェル・ルグランとコラボした72年の『With Michel Legrand』からの曲では、アントニオ・カルロス・ジョビンの“Wave”などルグラン指揮のオーケストラを従えた堂々たる歌いっぷりにも注目だ。他にも、ヘレン・ミラー&ローズ・マリー・マッコイ曲を多く取り上げた『Send In The Clowns』(74年)からはジーン・ペイジ編曲の“Right In The Next Room”などがピックアップ。加えて73年の中野サンプラザで収録された『Live In Japan』からのヴァージョンもあって、この時代のサラを堪能するのに申し分ない楽曲が厳選されている。ジャズの女王が時代の空気を吸収して切り拓いていた新しい歌世界の何たるかをぜひ確認してほしい。

5月7日にリイシューされるサラ・ヴォーンの作品。
左から、71年作『A Time In My Life』、72年作『With Michel Legrand』、72年作『Feelin’ Good』、73年作『Live In Japan Vol. 1』、73年作『Live In Japan Vol. 2』、74年作『Send In The Clowns』、サラ・ヴォーン&ザ・ジミー・ロウルズ・クインテットの74年作『Sarah Vaughan & The Jimmy Rowles Quintet』(すべてMainstream/Solid)