本編終了後、アンコールに応え舞台に戻った主幹・菊地成孔は結成から現在にいたる彼らの活動総体から演繹したふたつの命題を満員のオーディエンスに言い放った。いわく「ハメられるのもわるくない」。さらに「みずからの神にそむくな」。
――本稿は菊地成孔のこのことばの真意にあたうかぎり肉薄せんがために、かつてデートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンと呼ばれ、DCPRGからdCprGと改称し現在はDC/PRG(名称は各期で異同があるが、本稿ではこちらで統一する)と名乗る団体の履歴をたどりながら、11月3日の名古屋THE BOTTOM LINEを皮切りに、大阪Banana Hall、福岡BEAT STATIONとこの1ヶ月間、三都市でくりひろげた〈MIRROR BALLISM〉と題した20周年記念ツアーの楽日となった11月28日の東京公演の模様をとおし、菊地成孔とDC/PRGの現在地を考察するものである。と大見得を切ってみたものの、はたしてかぎられたスペースと時間と能力のなかで重責がつとまるか、私はいささかこころもとなく、それの証拠に、JR新宿駅から歌舞伎町を抜け、会場となる新宿BLAZEへ向かう足取りも傍目には泥みがちである。
とはいえ天候も無関係ではない。思えば一週間ちかく晴れ間をみない。きょうもみあげると、林立する高層ビル群の上空に蟠った鈍色の雲から散発的な雨が、しかし止むことなく降りつづいている。そぼふる雨のため、新宿BLAZEの入口がのぞむ広場も時間帯にしてはまばらな人出で、数時間後には満員札止めの観客がおしよせるとは想像できない。わずかに地下に降りる入口をふさぐように長机の上にTシャツをひろげ物販するスタッフの姿でこの場がライヴハウスであることがうかがいしれる。とはいえアニヴァーサリーともなれば、グッズ販売にも力が入らないわけがない。おりしもこの3日前、東京ドームに数万の観衆を集め、ローマ教皇フランシスコがとりおこなった巨大ミサではアイドルさながら教皇グッズが飛ぶように売れたという。となればDC/PRGも臨時バイトを大量に雇い入れ物販攻勢をしかけるにしくはない、と思いながら売り場にちかづいた私の耳に入ってきたのは「あっどうもー」という慣れ親しんだ声だった。
長机の中央にはビュロー菊地の辣腕マネージャー長沼氏が陣どっていたのである。私をみとめた彼のほうから声をかけてきた。長沼氏の両脇には柔和そうな女性と聡明さを絵に描いたような男の子が立っている。訊ねるともなく長沼氏は、いまちょうどリハーサルが終わるあたりなので、みていってください、という。こっちはぼくの家内と息子、ビュロー菊地は家内制手工業なんですよ、といって莞爾とする。そのことばにうながされ、地階のメインフロアに降りると、リハーサルは大詰めを迎えている。舞台中央前面には客席に背を向けるかたちでキーボード、それと直角にCD-Jを設え、それらがかこむ場所が菊地成孔の定位置となる。上手側の坪口昌恭と、菊地を挟み正対する小田朋美のキーボード、3台の鍵盤を扇の要に、上手側に大村孝佳(ギター)と大儀見元(パーカッション)と秋元修(ドラムス)、下手側には類家心平(トランペット)、その左隣に高井汐人と津上研太の2本のサックス、ホーンセクションの後方に千住宗臣(ドラムス)が構え、千住の右隣、中央後方奥にベースの近藤佑太を配する陣容が2019年現在のDC/PRGのフルセットである。