大野由美子+ZAKの編曲・音響、三浦基の演出が人間と社会の真実をどう塗り替えるか

 混迷と混沌が続く今の時代に呼応するような挑戦的舞台が12月、SHINJUKU FACEで上演される。演目は「三文オペラ 歌舞伎町の絞首台」。ベルトルト・ブレヒトの戯曲とクルト・ヴァイル作曲の音楽劇を新解釈する試みだ。プロデュースは湯山玲子。今までクラシック × ラップ等、異色音楽企画を実現してきた彼女だけに、本作の取り合わせも独創的だ。

 物語は札付きの悪党メッキースと乞食の元締めの娘ポリーの結婚を発端に、乞食、警官、娼婦らが欺き合うアウトレイジ劇。初演は1928年のドイツ。ブレヒトが提唱した〈異化効果〉によって観客の感情移入を攪乱し、最後まで予定調和を否定する構成だが、その演劇的仕掛けを支えるのがヴァイルの約20曲に及ぶ歌曲群だ。美しい旋律と無調の併存やワイマール時代の当時のキャバレー文化、ジャズの影響が作品に多層性をもたらし、あの有名な“マック・ザ・ナイフ”をはじめ、楽曲は多くの先進的アーティストを魅了し、様々なカバーを生んだ。

 今回、この編曲と演奏を担うのが大野由美子。80年代のニューウェーブシーンから活動を始め、90年代結成のバッファロー・ドーターでは実験的ロックを発動させ、常に国内外でボーダーレスに活動し、ムーグ使いでもある彼女が原曲の越境性とどう響き合うか。演奏は大野を中心とした4人編成のバンドに小田朋美らが参加、音響担当にはZAKが加わり、これぞ既に〈異化効果〉的取り合わせだろう。

聖児セミョーノフ
もも
秋吉久美子

 配役はメッキース役にシャンソンのストリート感を持つ聖児セミョーノフ、ポリー役にチャランポランタンのもも、情婦ジェニー役に秋吉久美子らが揃い、そして、これらをまとめあげるのが三浦基。古典戯曲を強烈かつ斬新な美意識で演出することで知られる彼が、原作の持つ現代に通じる人間と社会の真実を空間、視覚、音楽の置き方でどう演出し、観客の心に爪痕を残すか、見逃せない。

 実は会場のFACEはかつてリキッドルームとして90~00年代、最先端DJやアーティストの下、毎夜音楽フリークが集った場所。その一帯が後に〈トー横〉と呼ばれるとは知る由もない時代から時を経て、行き場を求めるキッズ、ガールズバーの少女、ホスト看板で飽和する2025年の新宿歌舞伎町に、乞食、悪党、娼婦が総動員される100年前のカオスが時代の様々なレイヤーをまとってどう漂着するか。ワイマール末期と比較されがちな昨今、観劇後の目に広がるトー横の風景に、正に地続きの異化効果を体感する希少な機会になるはずだ。

 


LIVE INFORMATION
音楽劇 三文オペラ 歌舞伎町の絞首台

2025年12月17日(水)~21日(日)SHINJUKU FACE

■原作
ベルトルト・ブレヒト『 三文オペラ』

■翻案
聖児セミョーノフ

■演奏/編曲
大野由美子(Buffalo Daughter)

■演奏
小田朋美/宮下広輔/海老原颯

■サウンド・ディレクター
ZAK

■演出
三浦基

■プロデューサー・音楽監督
湯山玲子

■出演
聖児セミョーノフ/秋吉久美子/もも(チャラン・ポランタン)/大谷亮介/エミ・エレオノーラ/安部聡子/真洋/梅垣義明/奥津裕也/トースティー/藤井レオナ/松本実/星田英利/渡部豪太

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