ミュージシャンでありライターとしても活躍するKotetsu Shoichiroの連載〈CD再生委員会〉。リバイバルしているCDという媒体にまつわるあれこれを毎回掘り下げています。今回のテーマはコンピレーションCD。CD世代なら誰もが1枚は手に取ったことがあるはずのオムニバス盤の歴史や名盤を振り返ります。 *Mikiki編集部

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コンピCDの代名詞といえば『Now』

〈どんなに時間のない時でも、Various Artistsの棚だけは一通り見よ!〉これは中古CDコーナー巡りの大鉄則です。そもそもは、音楽を聴き始めた当初、少しでもいろんなアーティストをまずは聴いてみたい!という思いから手を伸ばした数々のコンピレーションCD。その頃の習性のまま、今でも中古屋の奥まった棚の最下段へ自然と吸い寄せられてしまう自分がいます。

さて、世界的に最も有名なコンピレーションといえばイギリスの『Now That’s What I Call Music!』シリーズ(1983年~)でしょう。ヒットソングの中からさらに厳選された選曲とスムーズな曲順、楽曲のフル収録(それまでの似たような商品は、収録曲数を多くするために一曲を短くカットする等のエディットが施されているものもあった)などのブランディングが功を奏し、現在まで続く長寿シリーズに。

VARIOUS ARTISTS 『Now That’s What I Call Music! 121』 Now(2025)

『Now That’s What I Call Music!』シリーズは各国で制作・販売されているが、イギリスでの最新作は2025年7月25日に発売された 『121』。11月14日(金)に『122』もリリースされる予定

年に3枚のペースでリリースされ、本国では〈人は最初に買った『Now』を必ず覚えている。最初に乗った車のように〉とも言われるほど、個人のノスタルジーと強く結びついた存在として親しまれているそうです。〈名盤〉と言われるアルバムとは別に、ある時代の空気をパックした記録として、各々の胸に刻まれているということでしょう。

精肉会社のポスター。〈Now That’s What I Call Music〉の文言
出典:https://www.virgin.com/branson-family/richard-branson-blog/now-thats-what-i-call-music-turns-4

ちなみに〈Now...〉というタイトルは、1930年代の精肉会社のポスター――ニワトリの鳴き声に耳を傾けるブタが〈これこそ音楽だ!〉と聴き入っている、という図案が元ネタ。ブロイラーのように出荷されるポップスを聴いて喜んでいる客はブタみたいなもの、という風刺だとしたら、かなり「美味しんぼ」的政治観。同様のシリーズに『The Hits Album』(1984~2006年)があり、また日本の『BEAT EXPRESS』シリーズ(1986~1992年)などは邦楽版『Now』といったコンセプトで、影響力の大きさがわかります。

 

癒しブームの『image』、昭和歌謡リバイバルの『青春歌年鑑』

人気曲を集めただけではない、よりコンセプチュアルな〈テーマコンピ〉とでも言うべきジャンルも紹介しましょう。約180万枚のヒットとなった2000年リリースのソニーによる『image』は当時の〈癒し系〉ブームを反映したヒーリングミュージックのコンピレーションで、葉加瀬太郎や坂本龍一といったお茶の間でもお馴染みのアーティストのクラシック曲や映画音楽が収録されています。同様のコンセプトに東芝EMIの『〜the most relaxing〜 feel』(2000~2009年)というものもあります。

VARIOUS ARTISTS 『image 23 emotional & relaxing』 ソニー(2023)

『image』シリーズの最新作は『23』。2026年1月7日(水)に『26』がリリースされる

VARIOUS ARTISTS 『the most relaxing feel -Forever Best-』 山野楽器(2021)

ヒット商品でいえば『青春歌年鑑』(2000~2010年)も外せません。60年代以降の歌謡曲~ニューミュージックを年度ごとにまとめたコンセプトのわかりやすさで認知を得、当時の昭和歌謡カバーブーム(ウルフルズやRe:Japanの“明日があるさ”や島谷ひとみ“亜麻色の髪の乙女”など)もあってロングランヒット。1枚で1年という区切りは、数年後のiPodという黒船の登場による、時系列がすべてシャッフルされた音楽体験が当たり前になることを考えると、なかなかのんびりしたアーカイビングにも思えます。これに限らずですが、こういうヒット曲集をいっぱい持っているとDJ的にはかなり便利ですね。

 

生活に寄り添う『Free Soul』『CITY MUSIC TOKYO』

こういった〈ヒット曲全部乗せ〉コンピは、いまも形を変えドン・キホーテ等の量販店のCD棚をピカピカの3DCGロゴとともに埋め尽くしていますが、もう少しマニアックな方向にシフトしましょう。まずは大定番、選曲家・プロデューサー橋本徹氏による『Free Soul』シリーズ。ソウルをキーワードとしながらも、ボサノバやロック、ファンク、フォークと多ジャンルを横断する選曲から浮かび上がる〈Free Soul〉的美学は、渋谷系ミュージシャン/ファンの頼もしい伴走者でありました。

生活空間の中での聴き心地のよさ、というリスナー感覚を前提としつつも、ジャンルの歴史や豊かな文脈を匂わせる絶妙なバランス感覚は、DJカルチャー以降のコンピレーションとして強力な存在感を放ち、平成元年(1989年)の第1作『Free Soul Impressions』から現在に至るまで通算120枚以上続くロングランシリーズです。

シティポップコンピの人気作『CITY MUSIC TOKYO』(2020年~)も挙げておきましょう。RYUSENKEI・クニモンド瀧口氏の選曲で、ブームとなっているシティポップの入口としてまたとない好チョイス。ライターの金澤寿和氏による『Light Mellow』シリーズも、AORや和フュージョンの再発以外にもテーマコンピを展開しており、シティ派は要チェック。

VARIOUS ARTISTS 『CITY MUSIC TOKYO topology』 Insense Music Works(2025)

『CITY MUSIC TOKYO』シリーズも各レコード会社で制作・販売されているが、最新作はタワーレコード限定の『topology』。11月26日(水)にビクターから『First Suspicion』がリリースされる

 

アシッドジャズ/レアグルーヴの精神が宿ったオムニバス

『Free Soul』も『Light Mellow』も源流を辿れば、イギリスにおけるアシッドジャズ~レアグルーヴの精神に行き着くでしょう。埋もれた音源の再発掘、あるいは当時とは違う新たな聴き方の提示を求めるこのムーブメントにとってコンピレーションアルバムは、その価値観をプレゼンする場として機能しました。『Acid Jazz And Other Illicit Grooves』(1988~1989年)、『Talkin’ Loud』シリーズ(1990~1993年)などなど、いずれもジャイルス・ピーターソンの手による名コンピです。

VARIOUS ARTISTS 『Totally Wired... A New Collection From Acid Jazz』 Acid Jazz(2025)

1992年設立のレーベル、ソウル・ジャズは、当初は単純に過去の名作をリイシューするレーベルだったものの、NYサルサの入門的コンピ『Nu Yorica!』(1996年)のヒットをきっかけに、数々の発掘系コンピレーションを企画します。異形のニューウェーブディスコをまとめた『New York Noise』(2003~2006年)。エヴァ初号機のシンクロ率ばりに『200%』『300%』とシリーズごとにパーセントが増していくレゲエコンピ『100% Dynamite!』(1998~2009年)。10代の黒歴史スレスレの英米のカルトなパンクを集めた『Punk 45』(2013年~)などなど、レア曲たっぷりの人気シリーズをいくつも輩出しています。

 

ジャズ入門を手助けする編集盤

ジャズのコンピレーションは、廉価版のようなものも含めればキリがないですが、シリーズの展開数ではヴァーヴの『Jazz Club』シリーズ(1989~1991年)が有名ではないでしょうか。アーティストもしくは〈スピリチュアル〉〈ラテン〉〈ボーカル〉といったテーマごとに編まれた入門用コンピとして展開多数。新書のようなシンプルなデザインが特徴ですが、一時期ヴィレッジヴァンガードの棚にもズラリと並んでおりました。それと個人的にはブルーノートのレーベルサンプラーである『No Room For Squares』シリーズ(1993~1997年)は、ジャズを聴き始めた頃の入口としてよく聴いていましたね。

〈selected by ◯◯〉と冠される、眠れるカタログから〈あの人〉が選んだベストチョイス、というキュレーション系コンピも、掘り出し物があります。ユニークな所では、ビートたけしが選曲するジャズコンピ『たけしとジャズ』(2011年)、『たけしとブルーノート』(2013年)。無名時代のたけしがジャズ喫茶でバイトしていたというのは有名ですが、客=スノッブなお坊ちゃま達にナメられないために、ジャズマンやレコードの知識を頭に叩き込んで働いていたそうです。

ほかに『ジャズ・レコード100周年記念コンピレイション(ジャズマンが選ぶ25曲 選盤/選曲・菊地成孔)』は、谷王こと大谷能生との対談による解説がマッシブです。個人的に思い出深い1枚なのは、大学のジャズ研時代からの縁である東京スカパラダイスオーケストラの管楽器隊の3人(北原雅彦、GAMO、NARGO)による、戦前の日本人ジャズをコンパイルした『Big Bang Blow selected by NARGO, M. Kitahara & GAMO』(2003年)。今でもたまに棚から引っ張り出して聴きます。

VARIOUS ARTISTS 『ジャズ・レコード100周年記念コンピレイション(ジャズマンが選ぶ25曲 選盤/選曲・菊地成孔)』 ユニバーサル(2017)

 

小西康陽から小泉純一郎まで著名人キュレーション盤

キュレーション系コンピといえば小西康陽。徳間ジャパンの3部作『夜のミノルフォン・アワー』『徳間ダンス・パーティー』『お座敷ジャパン』(2015年)、日本コロムビアの名曲を集めた『GOOD NIGHT TOKYO』『MIDNIGHT TOKYO』(2000年)、クラブでかけたいJ-POPというチョイスの『エース』(2017年)、PIZZICATO FIVEを含む渋谷系大回顧『bossa nova 1991: shibuya scene retrospective』(2007年)ほか、まだまだありますね(渋谷系と言えば、オシャレなアニソンを集めた2007年の『AKSB ~これがアキシブ系だ!~』なんていうものもありましたが、エポックな1枚だったと思います)。

変わった所で、日本人ミュージシャンが選曲したフランク・ザッパのベスト盤『◯◯ meets フランク・ザッパ』シリーズ(1999年)。選者がPANTA(頭脳警察)、SUGIZO(LUNA SEA)、山本精一という、ザッパらしいと言っていいのかどうかわからない渋めのメンツ。ボブ・ディランを敬愛するみうらじゅんによるベスト『DYLANがROCK』(2010年)なんていうのもありますね。

キュレーション系の極北として、当時の内閣総理大臣・小泉純一郎が選曲したエルヴィス・プレスリーのベスト『私の好きなエルヴィス~小泉純一郎選曲 エルヴィス・チャリティ・アルバム』(2001年)も挙げておきましょう。音楽に政治を持ち込むなとか、ロックは反体制か否かとか、そういう話が一気にどうでもよくなりますね。現首相・高市早苗が選曲した『私の好きなアイアン・メイデン』にも期待したいものです。

 

日本のフォーク/ロックを紹介した『喫茶ロック』『極東最前線』

さすがにロック関係をもうちょっとフォローしておきましょうか。70年代の日本のフォークやロックの名曲にスポットを当てた『喫茶ロック』(2001~2002年)は、はっぴいえんどとその周辺はもちろん、GARO、赤い鳥、五輪真弓らの楽曲をコンパイル。シリーズで人気を博し、デビュー間もないキリンジやキセルといった若手アーティストを中心とした『喫茶ロック now』(2002年)という番外編も。今やこの辺りの音楽も〈シティポップ〉としてまとめられていると思うと、隔世の感あり。ちなみに『酒場ロック』(2003~2004年)なんていうインスパイア系?も。

信頼のロック系コンピといえば『極東最前線』(2000~2013年)。同名のeastern youth主催イベントから派生したシリーズで、あぶらだこ、ゆらゆら帝国、NUMBER GIRL、PANICSMILEといった濃厚なメンツがこの盤のために新曲 or 新録を披露した充実の内容。

VARIOUS ARTISTS 『極東最前線2』 バップ(2008)

更に深く潜るなら『Tokyo Flashback』シリーズ(1991~2011年)。日本のサイケデリックシーンの中心地であった明大前のレコード店モダーン・ミュージック~P.S.F.のレーベルサンプラー。世界のサイケマニアからも熱い支持を受け、アメリカの地下レーベル、ブラック・エディションズからも再発されています。

ということで駆け足でお送りしました、コンピレーションCDの世界でございました。優れたコンピレーションCDは、単なるいいとこ取りもしくは寄せ集めではなく、見知った音楽でも新しい切り口、新しい聴き方を提示してくれるのではないかと思います。あるいは、ひとまず10数曲の楽曲を集め、それに曲順を与えると、良い悪いは置いておいてそこに自ずと〈ストーリー〉が発生する謎の磁力、その面白さが、コンピレーションCDの魅力とも言えるでしょう。プレイリストの時代にあえて、このあたりのCDを振り返ってみませんか?

(DJミックス~ダンス系コンピレーションはまた別項にて……)

 


参考記事
https://graziadaily.co.uk/life/music/now-thats-what-i-call-music-compilation-album/
https://www.theguardian.com/culture/2014/dec/09/how-we-made-now-thats-what-i-call-music
https://www.abc.net.au/listen/doublej/music-reads/features/never-underestimate-the-power-of-a-good-compilation-album/10270356
https://hiphopgoldenage.com/list/top-15-hip-hop-compilation-albums/
https://thequietus.com/tq-charts/columns-of-the-year/top-40-best-compilation-albums-of-all-time/

 


PROFILE: Kotetsu Shoichiro

ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
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