この世で最も幸福な実写映画化作品

 荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフシリーズ「岸辺露伴は動かない」。その実写化となるNHK制作の同名ドラマは、露伴役の高橋一生と泉京香役の飯豊まりえという役者、セット・衣装・照明・カメラワーク、そして菊地成孔による音楽が共鳴し合い、ビザールで美しい原作の世界観をほぼパーフェクトな形で具現化した作品だ。

渡辺一貴, 高橋一生 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 NHKエンタープライズ(2024)

 昨年劇場公開された「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」は、その映画版。キャスト・スタッフ共にドラマ版からの続投となる。〈この世で最も邪悪な最も黒い絵〉〈今は使われていないルーヴル美術館の地下倉庫〉といったホラーの王道モチーフと露伴の過去とルーツが複雑に絡み合ったストーリーは、実にフィルムノワール向き。そもそも原作コミック自体、荒木がルーヴル美術館から〈バンド・シネ・プロジェクト〉の一環としてルーヴルを舞台にしたオリジナル作品を依頼され、実際にルーヴルを取材して着想を得たという〈いわく付き〉で、普通なら撮影許可が降りないルーヴル館内で撮影が行われた点も大きな見どころとなっている。

 「モナ・リザ」の真作と高橋扮する露伴の共演シーンは、虚実皮膜のシュールの極み。エッフェル塔、凱旋門、葉山加地邸、向瀧、大谷採石場跡……。時空を超えた歴史・芸術的建造物が露伴ワールドを構築するものとして作中に溶け込んだ姿に、興奮を禁じ得ない。ドラマ版でお馴染みのテーマ曲“大空位時代”もハマっているが、新音楽制作工房(菊地が自らの生徒と共に立ち上げたギルド)名義による長唄と電子音楽とガムランからなる異形のアンサンブル・セッションは、映画版ならではの産物だろう。

 今回発売されたパッケージは、出演者インタヴューやメイキングを収録した特典DISC 2枚と特製ブックレットが付属。さらに豪華版には岸辺露伴を型取ったアクリル版ポストカードスタンドが封入される。フィジカルで所有する愉楽に酔いしれたい。