秦 基博がニュー・アルバム『コペルニクス』をリリースする。一昨年にはデビュー10周年を迎えて初のオールタイム・ベスト発売、地元・横浜スタジアムでのワンマン・ライヴを開催と、キャリアにおける一つの到達点を形にした彼。新作はゼロ地点から再びピュアな〈音楽を作る楽しみ〉を再確認するところからスタートした、新機軸の一枚だ。

秦基博 コペルニクス ユニバーサルミュージック(2019)

秦 基博が、約4年ぶりとなるオリジナル・アルバム『コペルニクス』をリリースする。シンガー・ソングライターとして着実にキャリアを積み重ね、心に染み渡る歌を歌ってきた彼。新作は、数々の音楽的な挑戦が結実した一枚となった。

「まず、自分がやりたい音楽、興味のあるサウンドをとにかく作ってみようっていうのが、このアルバムの始まりでした」

その象徴となるのが、シングルにもなった“Raspberry Lover”だろう。ループ・ミュージックをベースにした曲調で、爪弾かれるアコースティック・ギターのフレーズと心拍のようなビートに乗せて独白のような歌が心情を綴っていく。

「この曲はギターのリズムと、四つ打ちのリズムと、言葉のリズムと、いろんなリズムが混在しているんです。そこがうまくいった時に、曲の根幹ができた感じがします」

メロディの〈新しい感動〉や〈今までにない気持ちよさ〉の探求。それがアルバム全体の一つのキーになっている。

「今の時代は音楽のジャンルによって、メロディの捉え方も違うし、それこそダンスミュージックにおいてはメロディの有り無しがわからないような曲もあったりする。メロディアスであるっていうことの具合が変わってきているとは肌で感じていて。それをいかに自分の音楽に落とし込むかという感覚でした」

アルバムには多彩なサウンドの楽曲がおさめられている。互いに呼応するような2曲のインストゥルメンタルの“天動説”“地動説”。弾き語りから徐々にシンセサウンドが広がっていく“LOVE LETTER”。デジタルファンクに挑戦した“アース・コレクション”。また初の卒業ソングとなった“仰げば青空”や、花の命の巡りをモチーフにした“花”など、歌とアコギのたおやかな響きを堪能できるナンバーもある。バラエティに富んだ内容だが、実は一つの共通する音作りのポイントがあったという。

「まずデモを作った段階で、どんな音にしたいかというのはありました。具体的に言うと〈エレキ・ギターを入れない〉っていうことは最初から決めていて。とにかく歌とアコギがサウンドの中心になることは間違いない。そこに対して何をぶつけていけば、今自分が作りたい音になるのかっていうことを考えたんです。リズムに関しては、生のドラムがあってもいいし、打ち込みがあってもいい。でも、エレキ・ギターは入れない。だんだん、自分がやろうとしていることに対して自然とエレキ・ギターがいらなくなってきているところはあったんですよ。“仰げば青空”もそうなんですけど」

歌詞には、彼自身の目線から綴られたエモーショナルな言葉が並ぶ。ラストに収められた“Rainsongs”の、どこか壮大な世界観もとても印象的だ。

「この曲は、メロディしかない時点でラストだなとは思ったんですよね。大きなものを感じる曲にしたいなっていうのがあって。最終的に大きなところにたどり着くための出発点を、自分のどこからはじめたらいいのかなっていうことから考えていきました。歌詞も最後に書いたんですけど、大きなものを歌う時にはなるべく具体的な言葉でその世界に辿り着けたらいいなっていうのがあって。特に“Rainsongs”は、アルバムを通していろんな世界を切り取ってきた最後に、今の自分に一番近しいところから曲を書きたいと思ったんですよね。今の社会の中で生きている自分、どういうムードが社会にあって、その中で自分が何を思っているのかというところから始まりたいなという」

〈コペルニクス〉というタイトルが象徴するように、彼自身のキャリアにとって大きなターニングポイントとなる作品。きっと聴く人にとっても、沢山の発見がある一枚になりそうだ。

「自分の音楽の転換点になるアルバム、ここから何かが変わっていくような作品になるといいなと思っていたので。新しいサウンド感や、自分の中での気付きとか、いろんなものがこのアルバムに入るといいなと思いながら作っていた。それを象徴する言葉ですね」