INTERVIEW

坂本真綾 『今日だけの音楽』 書き下ろされたショートストーリーが、音楽家達の感性によってさまざまに広がっていく芳醇な1枚

坂本真綾 『今日だけの音楽』 書き下ろされたショートストーリーが、音楽家達の感性によってさまざまに広がっていく芳醇な1枚

〈今日聴くのと、明日聴くのとでは意味が変わってしまう、今日だけの音楽〉というテーマをもとに、錚々たるアーティスト、クリエーターが集まって作り上げた坂本真綾のニューアルバム『今日だけの音楽』。彼女が書き下ろした一編のショートストーリーが、音楽家達の感性によってさまざまに広がっていく、芳醇な1枚となった。

夢の中で、音楽を聴いた。
降り注ぐような声。
透きとおって、でも色鮮やかな。
独りごとみたいで、けれど訴えかけてくるような。
世界にたったひとつの特別な音楽。
それなのに目が醒めたら、もう思い出せない。
もう一度だけ、聴くことができたなら。    坂本真綾

坂本真綾の10枚目のアルバム『今日だけの音楽』は、坂本自身が書き下ろした一編のショートストーリーが元になった。上記の一節から始まる文章を手にして楽曲制作をおこなったのは、10人のクリエーター達。〈今日聴くのと、明日聴くのとでは意味が変わってしまう、今日だけの音楽〉を探す冒険が始まる。

坂本真綾 今日だけの音楽 FlyingDog(2019)

 「あえてシングル曲を入れずに、世界観を統一したアルバムにしてみたくて、テーマを考えていたときに出てきたのが、〈今日だけの音楽〉でした。いつも聴いている音楽でも、聴くときによって味わいが違って、急に胸に飛び込んでくるという経験は誰にでもあると思うんです」

作家陣には、川谷絵音(ゲスの極み乙女。)、大沢伸一(MONDO GROSSO)、堀込泰行、荒井岳史(the band apart)、渡邊忍(ASPARAGUS)、伊澤一葉(the HIATUS)、SIRA、古川麦、一倉宏、岩里祐穂が参加。

「面識が一切なくお願いした方も、知り合いだけど曲を書いていただくのは初めての方も、今までずっと一緒にやってきた方もいらっしゃって、みなさん、楽しんで制作してくださったみたいです。同じ文章を読んでいるのに出てくるものは当然ながら違っていて、それぞれの方のイマジネーションを膨らませる力に感動しました」

唯一、2曲を提供したのが川谷絵音だ。

「ゲスの極み乙女。は以前から大好きで、いつかご一緒したいと思っていました。最初に上げていただいた“細やかに蓋をして”という曲はフェミニンで、こういう曲が歌いたかった!という曲だったんですけど、もう少し明るい曲も聴いてみたいなと思って、“ユーランゴブレット”というタイプの違う曲を作っていただきました。どちらも、メロディへの言葉のつけ方も素晴らしくて、私からは絶対に出てこない歌詞を書いていただきました。ご自分の世界を持っていらっしゃって、こんなに何でもできたら人生はさぞ楽しいだろうなって(笑)。嫌になっちゃうくらいの才能を目の当たりにしました。もちろん、他の方もみんな素晴らしいんですけどね」

作詞・作曲・編曲の全てを川谷が担当した2曲に対して、“オールドファッション”は、作詞を坂本、作曲を荒井岳史、編曲を北川勝利(ROUND TABLE)が分担して出来上がった曲。荒井と北川は、過去にも坂本の制作に関わってきたアーティストだ。

「荒井さんが書いてくださったのは実にthe band apartらしいメロディで、無骨な曲に仕上げることもできたんですけど、北川さんが逆に、キラキラしたシティポップに舵を切ってくださいました。この曲には、昔のバンドメンバーが久々に再結集して、今日だけの音楽を奏でるという裏テーマがあって、演奏を私のライブのバンドメンバーにお願いしました。この曲が終わったら、また普通の日に戻っちゃう。この曲が終わるまでは特別な関係でいたいという歌詞も、そこから派生したものです」

アルバムの最後を飾るのは、坂本自身が作詞・作曲したタイトル曲“今日だけの音楽”。

「ショートストーリーの結末となる曲なので、最後の曲は私が書かなければと決めていたのですが、みなさんの曲が素晴らしすぎて、プレッシャーを感じて(笑)。今日だけの音楽を探す中でいい曲にいっぱい出会った主人公が最後にたどり着くのは、夢から目覚めたときのベッドに元からあったような、ささやかな結末がいいのかなと思って、できるだけシンプルに作りました。今回のアルバムは、自分で脚本を書いて、各エピソードをそれぞれの演出家に任せたオムニバス映画を作るような感覚があって、面白かったですね」

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