コラム

坂本真綾『今日だけの音楽』 真摯に追いかけてきた音楽へのラヴレター

【二次元以上。 brilliant sounds from 2D and over】 Vol.43 Pt.1

坂本真綾『今日だけの音楽』 真摯に追いかけてきた音楽へのラヴレター

真摯に追いかけてきた音楽へのラヴレター

 坂本真綾の新作『今日だけの音楽』は、シングルやタイアップなど既発曲は入れず、今作のための書き下ろし曲のみを収録したコンセプト・アルバム。すべて新曲で挑むのは『少年アリス』以来16年ぶりのことで、タイトルに〈音楽〉という言葉を入れていることからも、本人の歌に対する強い想いがいつも以上に伝わってくる。作品のテーマは〈今日聴くのと、明日聴くのとでは意味が変わってしまう、今日だけの音楽〉。今回もさまざまなソングライターが参加し、ヴァラエティー豊かな曲が並んでいる。なかでも、川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End/ジェニーハイ)は2曲で作詞/作・編曲を担当。ダイナミックに展開するサウンドに織り込んだエモーショナルで生々しい言葉が、坂本の歌に新たな一面を与えている。

坂本真綾 今日だけの音楽 FlyingDog(2019)

 そのほか、打ち込みとピアノを中心に、緻密にデザインされた音響空間が坂本の繊細な歌声の魅力を際立たせる“ホーキングの空に”(作・編曲は大沢伸一)、ジャズをベースにした展開の速い曲を見事に歌いこなして、坂本のシンガーとしてのテクニックを見せつける“お望み通り”(作・編曲は伊澤一葉)、壮大なストリングスに彩られたドラマティックなバラード“火曜日”(作詞/作曲は堀込泰行)、キャッチーなメロディーに心地良いグルーヴを溶け込ませたシティー・ポップ“オールド・ファッション”(作曲は荒井岳史)、口笛のイントロから始まって、カントリー風のアコースティックなサウンドに胸が弾む“ディーゼル”(作・編曲は古川麦)――アルバムは曲ごとに多様な風景を見せるが、それをひとつの大きな世界にまとめあげていくのが坂本の歌声だ。曲に沿った歌い方をする、というよりも、どんなスタイルも呑み込むような表現力の豊かさで、シンガーとしての懐の深さを感じさせる。

 そして、オープニング曲“はじまり”とエンディング曲“今日だけの音楽”は坂本が作曲を手掛けることで、アルバムにまとまりを生み出しているのも見逃せない。〈夢の中で、音楽を聴いた。 降り注ぐような声。 透きとおって、でも色鮮やかな。 独りごとみたいで、けれど訴えかけてくるような。 世界にたったひとつの特別な音楽〉――アルバムにはそんな坂本のテキストが寄せられているが、その〈夢の音楽〉を現実の世界で奏でたのが本作だ。4年前に発表した前作『FOLLOW ME UP』は彼女が本格的に歌手デビューしてから20年目という節目にリリースされたが、本作には〈シンガーとして新しい一歩を踏み出す〉という気持ちも込められているのかもしれない。『今日だけの音楽』は坂本真綾の今を切り取ったスナップショットであり、彼女が追いかけてきた音楽へのラヴレターでもあるのだ。

 

『今日だけの音楽』に参加したアーティストの関連作品。

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