2018年の前作アルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』において、ダンスミュージックを拡張すると共に、ポリリズムを織り込むことでポップミュージックの進化を促したcero。5年ぶりとなる新作アルバム『e o』は、これまでこだわってきたコンセプトやストーリーテリング、フィジカルなグルーヴの先で、3人の内なる創造力を糧に、さらなる前進を果たした作品だ。彼らの目の前にはどんな音楽の景色が広がっているのか。メンバーの髙城晶平、荒内佑、橋本翼の3人に話を訊いた。
※このインタビューは2023年5月25日発行の「bounce vol.474」に掲載されている記事の拡大版です
音楽を介して人と関わる、考える
──前作『POLY LIFE MULTI SOUL』から5年ぶりとなる新作アルバム『e o』は、これまでceroが拠り所にしてきたコンセプトやストーリーに基づいた作品制作のスタイルから自らを解き放った画期的な作品です。このアルバムに向かう最初の一歩であった2020年の配信シングル“Fdf”は、米国ワシントンが発祥であるファンクビート〈ゴーゴー〉を軸に、ダンスミュージックの拡張を意図した『POLY LIFE MULTI SOUL』の流れを汲んだ曲でしたね。
髙城晶平「2019年の年末から2020年の年明けにかけて制作を行った“Fdf”の時点では次のアルバムについては全く考えていませんでした。あの曲はのちに7インチシングルも作りましたけど、ceroにとってフィジカルを持たない最初の曲で、内容的にもフィジカルを持たない次元に向かっていく事象がテーマにありました。
その時点で僕はソロでも動いていたんですけど、あらぴー(荒内)、はしもっちゃん(橋本)の作品はまだまだ時間がかかりそうだし、ceroをどうするかという地点に戻ってくるのは先になりそうだから、しばらくはソロかなとぼんやり考えていた程度。まして、コロナで世の中が大変なことになるとは全く想像もしていませんでしたね」
──2020年4月に髙城さんがShohei Takagi Parallela Botanica名義で発表したアルバム『Triptych』を皮切りに、2021年の荒内さんのアルバム『Śisei』、橋本さんのジオラマシーン名義のアルバム『あわい』と続いたソロ活動は、コロナ禍でライブが延期になりましたし、ceroとしても大人数で集まるのがなかなか難しかったと思います。
髙城「僕個人としては、ライブが自分の食い扶持とは思っていなかったので、気を病むことはそんなになかったと思うんですけど、とはいえ、将来的な不安は蓄積していて、この状況がこのまま続くのはマズいよなという思いもありました。
ただ、よくよく考えたら、自分の人生にとって音楽は絶対的なものではなく、たまたまだったんですよね。じゃあ、何がやりたかったかというと、音楽を介して人と関わりたかった、あるいは音楽を介して考えることがしたかったんだろうなって。
そういう地点まで立ち返ったことによって、自分が今後コロナじゃなく、もっと違うことで身体が拘束されるようなことがあったとしても音楽は続けられるだろうし、そう考えることで気が楽にもなりました」
──ソロ活動の経験はceroの音楽制作に何をもたらしたと思いますか。
髙城「これまでceroには、はっきりした青写真、プランやコンセプトに従って制作を進めてきたんですけど、それと同じ方法論で自分のソロを作り終えて、一段落ついたというか、また同じやり方をceroでやる感じではないかもしれないなって」
荒内佑「自分のソロは管弦楽器奏者がいて、譜面を書かなければ動かない音楽だったので、一音一音を精査する作業が必要だったんですけど、その後のceroの制作においても同じプロセスが引き継がれていきました。例えば、髙城くんから曲の種をもらったら、まずはメロディを譜面に書き起こして、それに対する旋律やアレンジを考えるようになりました」
橋本翼「ceroにおいて、僕の曲はいつも後出しなんですけど、ソロも2人に遅れて、ceroのアルバム制作が半分くらいまで進んだ頃ようやく出せたんです。その制作過程で生まれた、ソロに収まらない曲、そのなかからceroに合いそうな曲を提供できたのは大きな収穫でしたね」