昨年、結成20年を迎えた4人組ファンク・バンド、ニュー・マスターサウンズ(The New Mastersounds、以下NMS)。最新アルバム『Shake It』を携えた公演がいよいよ間近となったが、今回の単独来日公演は実に7年ぶり。
NMSは、1990年初頭からハードバップのライヴ・ステージングでUKジャズ・ダンス・シーンを担ってきたギタリスト、エディー・ロバーツが中心となり、1999年にイングランド北部の都市リーズで結成された。当初は現在よりもブーガルー色の強いサウンドだったが、グラント・グリーン、ジミー・マクグリフといった60年代ソウル・ジャズやミーターズのサウンドを取り入れたファンク路線に舵を切り、2000年に限定7インチをリリース。そして『Keb Darge Presents』と題したファーストアルバムを2001年に発表し、〈この瞬間に聞ける世界最高のファンク〉として、当時盛り上がりをみせたDeep Funkシーンを象徴するバンドとなった。その後、2007年に訪れたニューオーリンズをはじめアメリカ各地の現地ミュージシャンと繋がりながら、2010年代にはアメリカ全土を席巻するライブ・バンドとなっていく。世界各所を駆けずり回り、ツアーでの様々な出会いと経験から生まれたものをハードなスケジュールの合間を塗ってレコーディングしていく彼らのスタンスは全く変わらず、毎年コンスタントにアルバムを発表してきた。
現在では、スナーキー・パピーなどのUSジャズ・バンドの人気と共に、それらと双璧をなすファンク・バンドとしての注目度も高まるNMS。新天地コロラドでレーベル・プロデューサーとしての活動も軌道に乗り多忙を極めるエディーに、これまでの活動について、そして今回の来日公演に向けての話を訊いた。インタヴューで彼は、この20年を〈Full Circle〉と例えていたのが印象的だった。 *インタヴュー・文/大塚広子
この仕事を仕上げられて、自分自身とても誇りに思う
――最新アルバム『Shake It』はバンド20年目の作品ですね。ヴォーカルで参加しているラマー・ウィリアムズJr.の歌声も、NMSのサウンドと見事に溶けこんでいます。彼はオールマン・ブラザーズ・バンドのベーシスト(ラマー・ウィリアムズ)を父親に持つシンガー・ソングライターということもあり、よりアメリカのサザンロック・シーンとの繋がりも強化されたように思います。
「彼とのコラボレーションはすごく自然に始まったんだ。これまでの作品でも僕たちはいつも自然な形でコラボしてきてるんだけど、僕とラマー(Jr.)は、2018年の春の終わりくらいに出会ってすぐ意気投合したんだ。彼はアトランタで活動しているから、次回のツアーで僕らがアトランタに立ち寄るときに一緒に歌ってくれないかって誘ってね。本当にうまくいったよ。僕たちは一緒にアルバムを作ることを決めて、それ以来ラマーは2019年のすべてのショーに出演しているよ。僕たちは、狙って誰かと仕事をするってことはないんだ。出会いがすごく自然に起こっているだけなんだ」
――作品全体もブルージーでレイドバックした雰囲気がありますね。今回のアルバム制作にあたって印象的なことはありますか?
「『Shake It』は、僕が初めてフル・プロデュースした作品だよ。プレイやアレンジはもちろん、マイクやケーブルの位置、ミキシングからエンジニアリング、サウンドスケープの細かな部分も含めて全部だね。この仕事を仕上げられて自分自身とても誇りに思ってるよ」
――あなたが立ち上げたColor Redレーベルからのリリースですね。このレーベルを、コロラド州のデンバーで始めたきっかけを教えてください。
「2015年に僕はデンバーに引っ越したんだけど、この都市で行なわれている音楽の豊富さにすごく驚いた。誰もデンバーのどの音楽についても捕らえていないことを実感して、それを必要としている人がいるんじゃないかって考えはじめたんだ。そして僕は数人のプロデューサーとビジネス・パートナーと一緒にスタジオを建てて、2018年の8月にレーベルを設立した。Color Redのネーミングは、コロラドのことを、スペイン語で、Color Rojo(赤)と言われていたことに由来しているよ」
シーンが僕たちを選ぶかどうかだ
――最近は、どんな音楽をチェックしていますか?
「今は、Color Redで進めている音楽があるから、新しい音楽はそんなにたくさん聴ける時間がないんだ。でもね、1971年にリリースされたポール・ペーニャの自主盤をDIGしたよ。早速このレコードから、今年の春に僕がプロデュースするアルバムのインスピレーションをもらってる」
――NMSは、2000年代のDeep FunkシーンやDJカルチャーのシーンで活躍して、2010年からはアメリカのジャムバンド・シーンなどでも幅広く受け入れられています。これから新たなシーンでの活動も予定していますか?
「そうだね。USサザンロック・シーンはこれからも僕たちを受け入れると思うよ。でも僕らは自分たちのことをするだけ。シーンが僕たちを選ぶかどうかだ」
――20年の活動のなかで、世の中の音楽の変化をどのように感じていますか?
「まず1つ目に、音楽が人々にどう受け取られてきたかに関して話すよ。それはすごく変わったよね。昔は、例えば僕らのようなバンドを支持していたのは、レコード・コレクターだった。それからCDコンピレーションがたくさん出てきて、他のジャンルの音楽リスナーにむけても音楽は開かれるようになったよね。その後ストリーミング・サービスが始まった。このやり方はCDの売り上げを殺したけど、それと同時に自主でやってるようなバンドやレーベルも注目されやすくなったよね。そして今、またヴァイナルが流行っている。〈Full Circle〉 (一つの円)になっているんだ。
2つ目に、音楽のトレンドに関して。僕は20年の活動の中で、国や時間によって違ったトレンドがあることに気づいていた。いつもどこかで誰かしらが、僕らの音楽に入れ込んでいる。UKは2000年前半がすごく好調だった。フランスやスペイン、ドイツは2010年代がアツくて、USもこの時期に復活したよね。それでUKはちょうど今ジャズのリバイバルがまた来てる。他にも色々あるけど……」
若いオーディエンスが僕たちの音楽に新しい関心を持ってくれる
――20年のなかで、バンドのメンバーの生活は変化しましたよね。家族ができたり、それぞれの仕事があったり。常に世界中を周って活動をしていくなかで、バンドを維持するのは大変ではなかったですか?
「そうだね。本当にたくさんのことが変化したよ。子供が成人になった人もいれば、まだ小さい子供を持つ人もいる。違う国に引っ越した人、UKに残る人もいる。それぞれの理由があるにしろ、僕らは最初の時と同じようにいつも楽しんでプレイしていて、一緒にバンドを続けようとしていたんだ。それって個々のやり方次第だから、僕たちがお互いに出会えたことって本当に幸運だったと思うよ」
――ライヴの内容は、20年間で変化していっていますよね。どんな風に変化しましたか?
「うん、変化したね。最初の頃は45分くらいのセットで、それぞれのソロをプレイするのはめったになかった。でも最近のセットで2時間以下になることはないね。時々4時間になることもある! そんな風に変化したのは、間違いなくUSシーンの影響からだね。USでは長くプレイすることを期待されているから。僕たちは1999年に書いた曲もまだプレイするし、2019年に書いた曲も演奏する。今では僕たちが選択できる膨大なレパートリーがあるから、同じショーはないんだ」
――オーディエンスの雰囲気も変わっていますか?
「僕らと同じように年を重ねても来てくれるファンもいるし、若い層に置き換わっていることもある。あとね、アメリカとヨーロッパでは、若いオーディエンスが僕たちの音楽に新しい関心を持ってくれることに気付いたんだ。それってなぜかというとスナーキー・パピーや、ヴルフペックのようなファンク・バンドの人気に助けられているってことなんだよね。あと、親が若い頃、僕たちのファンだったという話を何度も耳にするんだ。彼らは、今20歳になって初めて僕らのプレイを見に来るようになった。20年も続けているとこんなことが起こるよ」
――最後に、2020年1月の来日公演に向けてのメッセージをください。
「僕らは皆、日本でのプレイが大好きだよ。日本に戻れると思うといつもワクワクする。単独公演は久々だけど、僕たちは2017年にいくつかのショーでプレイしていたし、僕も去年の夏、マタドール!ソウル・サウンズ(Matador! Soul Sounds)のグループで〈フジロック〉に出たところだよ。日本のみんなにとって、もう僕らはよそ者じゃないだろ(笑)。会いに来てくれよ!」
2020年1月
LIVE INFORMATION
THE NEW MASTERSOUNDS
2020年1月30日(木)東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
開場/開演:19:00/20:00
2020年1月31日(金)大阪・UMEDA SHANGRI-LA(大阪)
開場/開演:19:00/20:00
https://l-tike.com/newmastersounds/