問答無用のファンク番長が元気に帰ってきた! 北極海に面したアイスランドのスタジオでレコーディングを行ったその効果は、文字通りの『The Deplar Effect』に漲っている!

 「2020年2月に東京の空港でみんなで別れを告げたのが、2021年11月にアイスランドに降り立ってこのレコードを録音するまで、メンバー同士最後の顔合わせになったんだ。この後に何が起こるのか、私たちはまったく想像していなかったからね。 全員が別々の国に住んでいたから、その間ずっと会うことができなかったんだよ」(エディ・ロバーツ、ギター:以下同)。

 2019年秋の『Shake It』発表を経て、リリース後の来日公演がコロナ禍に見舞われる前のギリギリのパフォーマンスだったというニュー・マスターサウンズ(以下NMS)。99年に英リーズで結成され、ディープ・ファンクの文脈における現在進行形のインスト・ファンク・バンドとして20年以上も最前線に君臨し、米国や日本でも高い人気を誇る彼らはもはや大御所と言っていいだろう。エディとサイモン・アレン(ドラムス)、ピート・シャッド(ベース)、ジョー・タットン(オルガン)という現在の編成になってからでも15年以上が経っているわけだが、そんな安定した動きにあって、ここまで身動きが取れない出来事は初めてだったという。

 ただ、その間にエディはWRDトリオでのアルバムを出したり、ルーカス・デ・モルダーとNMSのコラボ曲を集めた日本独自盤『Feel The Spirit』(2021年)も発表。エディが現拠点の米コロラドで運営するレーベル=カラー・レッドもさまざまなバンドの作品リリースやアナログ・リイシューを続けて積極的な構えを見せていた。そのなかで準備されていたのが、エディが〈このレコード〉と語るこのたびの新作『The Deplar Effect』だ。今回のレコーディングはアイスランドのデプラーにある北極海に面した古い食料品店を改装したというフロキ・スタジオに赴いて行われ、イレヴン・ミュージックとの共同リリースという形になっている。

THE NEW MASTERSOUNDS 『The Deplar Effect』 Eleven Music/Color Red/Silent Trade(2022)

 「イレヴン・ミュージックの人たちとは数年前に知り合って、2020年にプライベート・パーティーで演奏したら、アイスランドの彼らの土地にスタジオを建てる計画を聞かされたんだ。それで去年の9月にアイスランドでスタジオを作る手伝いをして、アルバムのための曲を書きはじめたんだ。NMSはフロキ・スタジオを使う最初のバンドとなる予定だったからね。それで11月にNMSが最初のレコーディングに来ることに合意したんだけど、3か月しか時間がなかったんだ(笑)」。

 とはいえ、〈ドップラー効果〉に引っ掛けた冗談のようなアルバム表題が物語るように、新鮮な環境が良い効果を及ぼしたのは間違いない。

 「その通り! 世界から隔絶された場所にいること、その雰囲気や美しさは制作に大きな影響を与えたと思うよ。そしてもちろんジョークにせざるを得なかった(笑)。このアルバムは、バンドとしてふたたび集まった興奮と、アイスランドの最北端で私たちが囲まれていた風景のムードを同時に捉えたものにしたかったんだ」。

 再会の喜びと新鮮な土地への興奮が10日間の滞在を有意義な創作へと結びつけた。前作『Shake It』に続いてラマー・ウィリアムスJr(ノース・ミシシッピ・オールスターズ他)を数曲でヴォーカルに起用し、カントリー・ソウル的なサザン・フィーリングが前に出ていることも作品全体の温かい雰囲気に貢献している。

 「ラマーの声はとてもピュアな響きだと思うし、人間的にも大好きな一人だよ。彼はとてもゆったりしていて一緒に仕事しやすいし、たいてい1、2テイクで自分のパートを録り終えてしまうんだ」。

 安定感と刺激を同時に約束する彼らの音楽性は揺るぎなく、そんな『The Deplar Effect』を引っ提げた久々の来日公演も来年2月に決定したばかり。なお、そうやってNMSではライヴの日々に回帰しつつ、エディは自身の率いるカラー・レッドのこの後の展開についても教えてくれた。

 「2023年にはカラー・レッドからたくさんのエキサイティングなレコードが出る予定だ。特に今年の初めにフロキ・スタジオで録音したのは、ミーターズのジョージ・ポーターJrと私、グレイボーイ・オールスターズのロバート・ウォルター、素晴らしいドラマーのニッキ・グラスピー、そしてまだ秘密にしておくけどたくさんのゲスト・ヴォーカリストと一緒に録音したんだよ」。

左から、ニュー・マスターサウンズの2019年作『Shake It』(Color Red)、ルーカス・デ・モルダー・ウィズ・ザ・ニュー・マスターサウンズの2021年作『Feel The Spirit』(Pヴァイン)、WRDの2021年作『The Hit』(Color Red)

左から、ポリリズミックスの2020年作『Man From The Future』、ジョシュ・ホイヤー&ソウル・コロッサルの2021年作『Natural Born Hustler』、トゥルー・ラヴァーズの2021年作『Sunday Afternoon』(すべてColor Red)、ノース・ミシシッピ・オールスターズの2022年作『Set Sail』(New West)