高いソングライティング能力と予測不可能なユーモア・センスで、J-Popシーンで異彩を放つ異才・山池純矢による一人ユニット、ビッケブランカ。彼が3枚目のフル・アルバム『Devil』を完成させた。イントロの〈Devil〉な高笑いから始まる本作には、“Ca Va?”や“Shekebon!”といった中毒性のあるハイテンション曲、アニメ「ブラッククローバー」のオープニング曲となったアップテンポなピアノ・ロック“Black Catcher”、ロマンティックなラブソング“白熊”など、いつになく彩り豊かな11曲が並んでいる。〈Devil〉〈本性〉がテーマだというこのニュー・アルバムについて訊くべく、ビッケ本人を直撃した。

ビッケブランカ Devil avex trax(2020)

――今作のテーマについて教えてください。

「アルバム制作のときはいつも〈作るぞ〉って気張っていたところがあるんですけど、今回はそういうのがなくて、自然体のまま作ることができたんです。なので、自分の〈本性〉にもっとも近い作品なのかなと。というのと……僕、最近性格が悪いんですって(笑)。ああ言えばこう言うし、屁理屈も言うし、わがままだと自分でも思うんですけど、そういうのを周囲から〈悪魔化がすごい〉というふうによく言われるんです。それがいまのありのままの自分、本性でもあるということで、〈Devil〉と。

冒頭の2曲が“Ca Va?”“Shekebon!”なんですけど、序盤のアルバムの印象を決めるようなところはもっと万人受けするような〈いい曲〉を入れたほうがいいんだろうな、と思ったりもしたんです。だけど、ここは自分が本当に楽しく作った曲を入れたいと。そういう、マーケティングとかよりも自分のやりたいことを優先するような思考も〈Devil〉なのかなって。かっこよく言うと、いまの音楽業界に抗うような思いもなきにしもあらず……本当にちょっとだけですけど。あ、ここ見出しにしないでくださいね(笑)」

――(笑)。

「何事も決断するのが早すぎて、そういうところもスタッフから〈恐い〉〈悪魔〉と言われてるんですけど(笑)、考えても仕方ないっていうのがいつもあるんですよ。なのでアルバムのテーマも、本当は掲げても仕方ないとも思ってて。今回もその時々に作りたい曲を11曲作ったので、テーマに沿って作っていったわけではなく、後からついてきたところはありますね」

――それゆえに曲調もさまざまですね。

「前2作もそうなんですが、最後の曲はいつも自然の驚異みたいなものをテーマにしているんです。一枚目『FEARLESS』(2017年)は“THUNDERBOLT”=落雷、二枚目『wizard』(2018年)は“Great Squall”=大嵐。で、今回は“Avalanche”=雪崩ですね。今回もピアノ・ポップ、ヒップホップ、クラブ・ミュージックっていろいろなジャンルの曲があって、最後は自然さんにまとめていただく……という(笑)。〈自然枠〉、絶対あるんですよ。」

――そういう制作のアイデアはどう記録しているんですか? スマホにメモしたり?

「頭の中で覚えておくので、メモしたりはあまりしないですね。翌日に忘れちゃうようなことは大したことじゃないのかなって。でも、ラジオやTVとかでトークするとき用に、スマートフォンにエピソードを書き留めておくことはあるかもしれない」

――ネタ帳みたいな。ちなみに、いまスマホにあるいちばん新しいメモって何ですか?

「(スマホを確認する)あ! “白熊”の歌詞〈嘘くさいなんて切り捨てないで/真実はいつも嘘みたいに⾒えるものです〉に似たことが書いてありました。僕、よく〈嘘つき〉とも言われるんですけど(笑)、でもその嘘の中に真実があるんだ、とつねに思ってるんですよ。このメモのことは忘れてたので見返して“白熊”の歌詞を書いたわけじゃないんですけど、(歌詞に)なってましたね。気づかせてくれてありがとうございます(笑)」

――今作の制作でダイレクトに影響を受けたアーティストや音楽はありましたか?

「もともとEDMとかクラブ・ミュージックは好きでよく聴いているんですけど、8曲目(“Save This Love”)や9曲目(“Heal Me”)は、アラン・ウォーカーとか最近嵐のリミックスもしていたリハブ(R3hab)など世界のトップ・プロデューサー/DJの楽曲に影響を受けていますね。

僕は母親の影響で英語が話せるほうで、去年の11月に行った中国公演で物おじしないで話せたことが自信になったんですね。それで、音楽的にももっと世界標準なものを本気で作ったらどうなんだろう、と思ったんです。前作からDJの方にサポートしてもらいながらチャレンジしてはいたんですけど、今回のこの2曲は一人で一から作りました。がんばった甲斐あって、クオリティーも上がったと思います」

――初の海外公演だったという、その中国でのライブはいかがでしたか?

「楽しかったです。初公演なのに300人くらい集まってくれました。日本から来てくれた人もいたけど大半は中国の人で、向こうのファンの人たちはもうすごいんですよ、熱烈で。目が合うとこう(投げキッス)をしてくれたり(笑)。

いろんな人から向こうのオーディエンスの感じとか、MCはこうしたほうがいいとか事前に話を聞いてたんですけど、情報が多すぎてもう決められなくて。ヘンにいつもと違うことやると気張るし、半端な公演になっちゃうと思ったので、結局いつも通りのやり方でやったんです。〈僕、それしかできないです!〉って、MCも10分くらいやって。そしたらまあ笑ってくれて、盛り上がって。僕も完璧な英語を話せるわけじゃないので、きっと文法とか間違ってたと思うんですけど、ちゃんと向き合えば楽しい時間が作れるんだなと。音楽ってものを介せば、国境や文化の違いも越えてしまえるんだなと実感しましたね」

――ご自身の音楽にも影響を及ぼすほど大きな出来事だったと。また公演ができるといいですよね。

「しますよ。公演前に、上海にある日本領事館(在上海日本国総領事館)に行きましたもん、〈またお誘いください〉って」

――早い(笑)!

「いま中国では南京がアツいらしいんです。領事館の方と旨い日本食を食べながら、いま南京でいろいろと新しいことをやろうとしてるからぜひ一緒にやりましょうと、けっこう具体的な話もしてくださって。見事な日でしたね(笑)。中国のスピード感とかハッキリとモノを言うような国民性も自分の性格に合ってると感じたし、絶対またやりますよ!」

――ちなみに中国のビッケ・ファンは、ほかにも日本の音楽を聴いているんでしょうか。

「ファンの方のWeiboのプロフィールを見ると、だいたいビッケブランカ、あいみょん、片寄涼太の3者が並んでいることが多いですね。僕の音楽は、今回の“Black Catcher”とかアニメの主題歌を入口に知ってくれる人も多いみたいです。ストリーミングもスタンダードになりましたし、海外で聴かれることを意識して英語表記にしたり、楽曲のプロダクションに気を遣ったりもしていますね」

――“Ca Va?”はSpotifyのタイアップにもなりましたし、広く聴かれるきっかけになったのではないでしょうか。

「“Ca Va?”は日本がほとんどだと思いますね。Spotifyって、どこの国の人から聴かれているのかをこちらから見ることができるんですよ(スマホでビッケブランカのSpotifyアカウント画面を見せる)……例えば、アニメの主題歌の“Black Catcher”はアメリカ、日本、メキシコ、インドネシアの順で聴かれていますね」

――いちばん多いのがアメリカなんですね。

「ぶっちぎりで。街で言うといちばんがチリのサンティアゴ、ジャカルタ。おそらく、向こうでこのアニメが人気なんだと思います。“Ca Va?”も見てみよう。日本、アメリカ、インドネシア、フランス……フランス語使ってるので、フランスもうちょっとがんばってくれ(笑)。街だと東京、大阪、世田谷……海外だとジャカルタ。日本国内が続いた後、台北、サンティアゴ」

――サンティアゴ人気があるみたいですね。

「サンティアゴ、行くしかないな。(スタッフに)サンティアゴ(のツアー)組んでください。サンティアゴが待ってる。絶対組んで!」

――(笑)。今回のアルバムが日本のみならずいろいろな国のリスナーにも届くといいなと願っています。最後に、まだビッケさんの音楽を聴いたことのない方に向けて、ご自身の音楽を紹介するとしたらどう伝えますか?

「もう、〈聴いて!〉って、ただそれだけですよ。礼儀正しく自分の音楽を説明するなんてしない、それこそ〈Devil〉な精神で(笑)。僕はただ曲を提示する。そしてそれを聴いてもらう。本当にそれだけだと思っています」