フランスに実在するゲイの水球チーム〈シャイニー・シュリンプス〉をモデルにしたスポ根コメディームービー「シャイニー・シュリンプス!」。水球だけでなく、歌とダンスも大好きな愉快で愛しいキャラクターたちがさまざまな困難を乗り越えながら、チームの絆を育み、そして成長を遂げていく……そんなシュリンプスたちの物語が、いっそうスケールアップしてスクリーンに帰ってきた。
続編となる「シャイニー・シュリンプス!世界にはばたけ」で彼らはチーム最大の危機と直面。ゲイ差別が横行する異国の街で予期せぬ大騒動に巻き込まれ、命の危機に陥ってしまうのである。はたして彼らはその困難から抜け出し、ゴールに辿り着くことはできるのか? と、前作とはガラリと雰囲気を変えてきたこの第2作目だが、実際にチームの一員だったセドリック・ル・ギャロと、コメディーの世界から頭角をあらわしたマキシム・ゴヴァールという監督・脚本チームのコンビネーションは絶好調で、LGBTQ+に注がれる現実のシビアな目線もしっかりと取り入れながら、痛快な娯楽作品に仕立て上げてみせる。
注目したいのは、今回シュリンプスの面々がゴールとしてめざす地が、東京であるということ。そしてエンディングを飾るのが、全世界共通エンディング曲として書き下ろされた、ビッケブランカの“Changes”であるという事実。どういった経緯でこのような日本のカルチャーとのコラボが誕生することになったのか。それを確認すべく、セドリック・ル・ギャロ&マキシム・ゴヴァールのふたりと、ビッケブランカが待つ取材場所へと向かった。
清潔な街 東京と雑然としていて自由な街パリ
――来日は何回目なんですか?
セドリック・ル・ギャロ「2度目だね」
――まず、おふたりの東京に対するイメージをお訊きしたいのですが。
ル・ギャロ「清潔な街だなと思う。地べたに座りながら何か食べても平気なぐらいキレイ。フランスはどこもかしこもめちゃくちゃで、汚いからさ。
あとこんなに人がいるのに落ち着いているところもおもしろい。昨日の夜、渋谷の交差点を歩いたんだけど、大勢の人が行きかっているのに誰にもぶつからないって不思議だよ」
――そんな東京という街に住みながら、ビッケさんは音楽を作り続けているわけですが。
ビッケブランカ「いろんな部分から刺激を受けていますね。
たしかに東京はすごくきれいな街です。パリへ行ったときショックだったのは、すべてがあまりに雑然としていたことでした。でもそれがすごく魅力的に感じられたんです。そこではみんなが自由に生きている、その痕跡がはっきりと見えた。
そんなパリの街が持つ独特な空気は僕の音楽作りにも少なからず影響を与えていて、初めて訪れたときに得たインスピレーションから“Ca Va?”って曲を書いたりもしました」
ル・ギャロ「ほんとに?」
マキシム・ゴヴァール「そもそも人は自分にないものを求めるからね」
ビッケさんの声を聴いて、素晴らしい感性の持ち主に違いないとピンときた
――ところで今回のオファーはどのような形で行われたのですか?
ビッケ「彼らが僕を見つけてくれたんです。あなたは多様な楽曲が書けるから、多様性がテーマとなったこの映画についての曲が書けるはずだ、って言ってもらえて」
ル・ギャロ「シャイニー・シュリンプスが東京へ行く、ってところで映画が終わるので、最後に日本語の曲が登場するのがいいと思ったんだよ」
――多様性以外にもビッケさんを起用したいと思ったポイントってどんなものがありましたか?
ビッケ「ぜひ知りたいです(笑)」
ゴヴァール「実際のところ、僕らは日本人アーティストについて詳しくなかったので、精通している人にいろいろと候補を挙げてもらったんだ。
そんななか、ビッケさんの声を聴いたとき、これは素晴らしい感性の持ち主に違いない、とピンときた。自分たちがイメージしていたピッタリな声だったんだよ。ソフトなのにとても個性が感じられる。そんな意見をセドリックに伝えたところ、彼もまったく同じことを考えていたことがわかって」
ビッケ「フ~(照れ笑い)」
ゴヴァール「セ・ラ・ヴィ(=それが人生ってものさ)」
――(笑)。そしてビッケさんから届けられた“Changes”を耳にして、どのような感想を抱きましたか?
ゴヴァール「ハ~(胸に手を当ててため息)。まずは安心感から来るため息が漏れたよ。
劇中に流れる曲とは違ってエンディングテーマは特別だから、失敗は許されない。少し心配していたのも事実さ。いくら話し合いを重ねたからと言っても、意図がちゃんと理解されているかどうかわからないしね。
でも最初に提示してくれたものが、ほぼ最終バージョンと言ってもいいものだった。だから安心した、というのが率直な感想だね」
――曲の随所に流れているゴスペル的なフィーリングが“Changes”の持つ独特な世界観を決定づけていますね。
ビッケ「ゴスペルの要素を入れようと考えたのは、歌詞が出来てからですね。セドリックとマキシムとのミーティングから汲み取れた確固たるメッセージをもとに、重なり合う部分を探りながら曲を組み立てていくなかで〈讃えよう〉といった言葉が出てきました。そのイメージに引っ張られるようにして曲全体に荘厳な雰囲気が醸し出され、っていう順序で完成に至った感じですね」
ゴヴァール「歌詞も素晴らしいね。僕たちが思い描いていたもの、そのまんまだったよ」