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ロックを聴く理由、ロック・バンドをやる理由は〈イメージの広がり〉

――『GOLD』から1年半ぶりのアルバムとなりましたが、その間に3曲連続で配信シングルのリリースがありました。『GOLD』を経た次の一手として、どういうモードへ向かおうとしたのでしょうか?

「『GOLD』は自分たちが届いていない外側にエネルギーを向けて、自分たちの存在をわからせようとした作品で。だから、その次はもっと自分たちの深いところに来てほしくて、インナーに向かおうとしたのが最初ですね。

自分の原風景というか、これまで見てきたピュアにきれいだと思えた景色とか感覚を作品にしたかった」

――配信シングルで発表された“CLOSE EYE”“HIGH WAY BEACH”“nothing anymore”の3曲には、いずれもこれまでのAge Factoryのイメージを一新するような気概を感じていました。

「そうですね。既存の表現ではない新しいものを、カルチャーとして共有していけたらいいなと思うようになったんです。なので、この3曲では『GOLD』から成長した自分たちの音楽性の幅も見せつつ、リスナーに見せたい風景を提示していきました。

まず“HIGH WAY BEACH”と“CLOSE EYE”を作っていったのですが、“HIGH WAY BEACH”が出来たときに、今後もやっていきたいと思える伝え方を見つけた感じがしたんです。ライブで演奏していて弾ける部分に自分たちのイズムを感じたんですよね」

『EVERYNIGHT』収録曲“HIGH WAY BEACH”

――その〈自分たちのイズム〉について、もう少し具体的に教えてもらえますか?

「聴いていて心がドライヴする、グッとくる瞬間でしょうか。イメージがこう、一気に広がるワードやメロディーが出てくるタイミングがあって。〈HIGH WAY BEACH〉と歌うその瞬間に、〈ここが自分たちの唯一性、カラーなのかも〉と思えたというか」

――そもそも海のない奈良を拠点としているAge Factoryにとって〈BEACH〉というワードは距離感がある言葉だと思いましたが、それを幻のものとして自分たちの物語に引き寄せるところにグッときましたね。

「〈『HIGH WAY BEACH』って何?〉ってなりますよね。でも、それは自分たちが今も奈良で音楽をやりながら、エモーションを探し続けているというヒストリーとも関連しているんです。自分たちにしか表現できないロマンがそこにあるんじゃないかと」

――確かに。聴いていて広大な景色が現れる感じというか。

「俺がロックを聴いている理由やロック・バンドをしている理由も、それかもしれません。聴いた時に違う世界に感覚がドライヴしていって、イメージが広がっていく感覚を得られるのが、誰かが作る音楽を聴く素晴らしさなので。だから、今回の作品はそのイメージの広がりに対して真摯に向き合おうとしました」

 

何においてもリアリティーを感じられない、そのフラストレーションを全開放したかった

――一方で“CLOSE EYE”のエモーションにも驚きました。

「“CLOSE EYE”は、これまでのオルタナティヴな部分にヒップホップ的な感覚を取り入れたので、自分たちにとってのミクスチャーでしょうか。ライブで演奏した時に自分たちがテンションを高いところまで持っていける曲が欲しいというシンプルな動機で作りました」

『EVERYNIGHT』収録曲“CLOSE EYE”

――ハードなギター・リフに乗せて清水さんがワードをまくし立てていく、ラップのようなヴォーカル表現も印象的でした。

「今回の作品からデモをPCで作るようになったことも、ヒップホップ的な部分と関係していると思います。もちろん、自分自身ヒップホップをよく聴きますし、この曲の背景には確かにありますけど、俺はラップができるわけでもない。

あれは歌でも、ラップでも、ポエトリー・リーディングでもないですね。新しい譜割りの表現ができたと思っています」

――この並べられた言葉たちは、どのような関連性を持っているのでしょうか?

「一番リアリティーを感じなくて、俺が普段見ていて気色悪い言葉……でしょうか。

今、秩序があるのに誰からも生々しい感情を感じられない。色んな情報とか言葉が溢れすぎていて、何においても自分以外のことについてリアリティーを感じられなくなってきている。それなのに、毎日さらに情報が勝手に入ってくる。そのことに対する自分のフラストレーションを、ただ全開放したかっただけなんです。

だから、言葉に意味はありません。でも、その意味がないことに意味があると思うんです。トラックに乗せて言葉を並べられたとき、それが自分の中で新しいハードコアな表現だと思えたので」

――意味のない言葉の羅列だからこそ、リスナーがそれぞれの感情に基づいた意味をその余白に持たせることが出来ますよね。先ほどから仰っている〈イメージ〉の話ともつながるというか。

「めっちゃいいですね。そうやって勝手にイメージを膨らましてくれたらいい。俺も好きな曲を歩きながら聴いていると、今やったら誰でも殴れるんちゃうかなって思えてくる。あの感覚がすごく好きで。そこに独自のエネルギーが生まれるんやろうなと思っています」