
〈Voice〉に集中したアルバム
――ユニークなタイトルの意図は?
SOA「これまでエレクトロなサウンドの作品が多く〈自分の声〉を見失いつつあったんです。そこで今回は生楽器中心の楽曲でどこまで〈自分の声〉に集中できるかにチャレンジしました。なのでタイトルに〈Voice〉を入れています。
〈Buoy〉は海にある浮標のことで、だいたい説明すると、みんな〈ああ、あれのことか!〉ってなりますね(笑)。普段あまり使わない単語を入れると覚えてもらえやすいかな、というのと〈色々なサウンドのなかで自分の声が指標になる〉というイメージがありました」
――声と言えば“TOWNBEATS”のヴォーカルの質感が印象的でした。録音へのこだわりがあれば教えてください。
SOA「ヴォーカルは基本的に宅録ですね」
島「1日や2日、東京に来て、バンドも歌も録るのは難しいんですよ。特にヴォーカルは機材のレヴェルが下がっても、リラックスできる環境で何回も録った方が良いクオリティーになる。
それにSOAさんはノイマンの良いマイクを持っているので、宅録を僕から提案しました。だからこそ曲によっては何回か突き返したものもあります(笑)」
SOA「そうですね、かなり時間をかけてやりました。そういう意味でも〈自分の声〉に集中できたのかなと思います」
想像をはるかに超える島裕介のホーン・アレンジ
――アルバム全体としては大きく分けるとネオ・ソウル風味のあるバンド・セット、日本語の質感が活きたピアノとのデュオで構成されているのも気になりました。
SOA「バンド・スタイルの曲は東京で録りました。ピアノと歌でのレコーディングは初挑戦で、関西の永田有吾さんと演奏しています。ピアニストとの相性はかなり大事で、永田さんは同世代だし〈この人とピアノ・デュオで録りたい〉と以前から思ってました。
今までジャズを歌う時は英語の曲が圧倒的に多かったのですが、今作で日本語も歌ってみて英語とのグルーヴの違いを強く意識するようになりました。個人的に英語は子音と母音の入れ替わりによってドライヴしていく言語、日本語は音が置かれていく美しさがある言語なので、その対照性を意識的に出したかったんです。海外のサウンドだけじゃなくて、日本人の音を少しでも表現できればと」
――島さんはプロデュースだけでなくトランペットやトロンボーン、フリューゲルホルン、フルート、トロンボーンと多彩な楽器で参加されています。プレイヤーとして心がけたことは何でしょう?
島「編成を変えてヴァリエーションを付けることは心がけました。特に時間をかけたのは“Under The Stars”ですね。アレンジも凝って、自分だけでも10トラックくらい入れてます。逆に“Skylark”は凝りすぎずトランペットだけにしたり。あと“Recolor”はSOAさんのバンド・プロジェクト時代からある曲で、ヴォーカルと管楽器が一緒にメロディーを取る形になっています。
歌が主役なのは当然ですが、ありきたりのアレンジにはしたくなかったんですよ。編曲する時は主軸となるメロディーラインをヴォーカルに対する副旋律として吹いてみて、それに重ねていく方法を採ります。そこからアイデアが湧いてくるんですよね。それで十分なら1トラックでいいし、10本くらい欲しいなと思ったら重ねる。
もちろん歌がメインなんだけど、ホーンもメロディーを歌っている、みたいな感じです。〈あくまでバッキングだ〉というモードになってしまう気がするので譜面は書きません」
SOA「バンドの時はメンバーにサックスひとりだったので、自分の楽曲にホーン・セクションが入った完成図がイメージできなかったんです。でも出来上がりを聴いたら想像をはるかに超えていましたね」
島「ありがとうございます(笑)!」