2024年12月26日、〈XinU 2nd ALBUMリリース記念ワンマンライブ〉が東京・恵比寿LIQUIDROOOMで開催された。『A.O.R - Adult Oriented Romance』の発表を祝って開催され、デビュー以降ステップしてきたXinUの最新の姿を提示した、自身最大規模の単独公演の模様を音楽ライター内本順一に伝えてもらった。 *Mikiki編集部


 

〈全員に〉ではなく〈ひとりひとりに〉歌う

「ここにいてよ ここにいるよ 離さないでよ手を」。1stアルバムの終わり(“罠 -Reprise”の前)に収められていた“やまない雨”はそのように歌われる。LIQUIDROOM公演のアンコールで、XinUは満杯のフロアの真ん中に入って、オフマイクのアコギでこの曲を弾き語った。そっと。静かに。ひとりひとりに歌いかけるように。「離さないでよ手を」。何度もそのフレーズを繰り返し、観客のみんなもXinUと一緒に小さな声でそのフレーズを繰り返した。あの場面が忘れられない。

一体感という言葉はその場にいる全員がひとつになるという意味で使われることが多いが、それとは少しだけ違う。XinUがその場にいる全員を歌でひとつにまとめあげた、ということではない。全員に、というのではなく、そこにいるひとりひとりの目をちゃんと見つめるようにして、XinUはその曲を歌っていた。だからその瞬間、観客の多くはXinUと気持ちを通い合わせることができている、心でつながっていると感じたに違いない。

2022年の作品『XinU EP #01』をリリースした際の初インタビューで、彼女は「今はひとりのシンガーとして、XinUを名乗っています。あなた(U)にクロス(X)する、という意味です」と話していたが、まさにその場にいた〈U〉ひとりひとりとXinUは〈X〉(クロス)した。そういう絵を具体的に思い描いて付けたアーティストネームではないだろうが、でもあの場面を見た今となっては、「この状態を想定して付けたんです」と言われても「なるほど」と信じてしまいそうだ。

 

〈つながっている〉実感を信じて歌う

2ndアルバム『A.O.R - Adult Oriented Romance』のインタビューを読んでもらえればわかる通り、XinUは今、みんなとのつながりを信じて歌っている。ライブもそうだし、2ndアルバムもその実感を元に作られたものだ。「EPのツアーで、みんなとのつながりがすごく大事だなって感じて、ライブが私にとって欠かせないことなんだと改めて気づいたところもある。ライブでみんなとつながれるからこそ私は歌っていけると伝えたくて歌詞に落とし込んだ曲もあるんです」。インタビューでそう話していたが、例えばそれは“また会いに行くから”であり、“つながっていて”であった。その2曲は今回の演奏曲のなかでもとりわけ重要と思われるタイミングで歌われた。“また会いに行くから”は本編の最後を飾った。“つながっていて”は中盤の少し長めのMCのあとに歌われた。そのMCを書き起こしておこう。

『A.O.R』、聴いてくれましたか? 人生で2枚目のフルアルバムになりました。この1年、ライブを通してとか日々の生活のなかで、聴いてくれるみんなとつながっているって感じられることがすごく励みになって。そのつながりを大事にしたいという思いがこのアルバムに詰め込まれています。1stアルバムはひたすら自分と向き合って闇雲に書いた曲が多かったんだけど、2ndアルバムはここに来てくれるみんなのことを想像しながら書いた曲が多くなっています。

1年前にLIQUIDROOM(で公演すること)を発表して、そのときから来るって決めてくれた人もいて、それが見えないつながりになっていて。制作するとき、何かをやるときって、孤独な闘いだといつも思っているんですけど、そんななかでもみんなと確かにつながっているということに励まされました。

そんなことをこの1年で実感できたので、私の弱いところとか迷っているところとかも素直にぶつけてみてもいいんじゃないかと思って書いた曲があります。私も曝け出すことで聴いてくれるみんなの背中をそっと押せたらいいなと思って書きました。“つながっていて”。

〈つながっている〉という確かな実感。『XinU EP #03』制作時とそのツアーの際に持っていた〈一緒に揺れよう〉というテーマ。〈あなたにクロスする〉というアーティストネーム。これらの接続によって現在のXinUがある。そしてこのライブは、そのことを様々な場面で明確に伝えてくるものだった。

冒頭に書いたアンコール1曲目の“やまない雨”はとりわけ象徴的で印象深かったが、ほかにも例えば「みんな一緒に歌えますか?」と言って「♪オ~オ~オ~」とシンガロングを発生させた“鼓動”、「まだまだ歌えますか?」と言って同じように「♪オッオ~・オッオ~オ」のシンガロングを生んだ“いつのまにか”、「♪ラ~ラ~、ララララ~」とみんなで歌った“また会いに行くから”もステージの上と下という関係性が取り払われた瞬間だった。

因みにこのLIQUIDROOM公演がXinUの口から発表された1年前の〈XinU 2nd anniversary LIVE!〉の会場は収容人数約500人の渋谷WWWだったが、LIQUIDROOMは約1,000人収容ということでおよそ倍。デビューから3年でその会場を満杯にするというのもたいしたものだが、それ以上にその場所でひとりひとりに〈つながっている〉という感覚をもたらすライブを彼女は確かに行なったのだということをここにしっかり書き記しておきたい。