「カラフルなベートーヴェンが並ぶ、音のご馳走でした」ふかわりょう

 お笑いタレント、司会者、エッセイスト、ミュージシャン(Wikipediaより)と多彩な顔を持つ〈ふかわりょう〉(本名=府川亮)。NHKFMで2012年4月から2020年3月まで続いた日曜昼下がりの長寿番組「きらクラ!」でチェリストの遠藤真理とパーソナリティを務め、「音楽の友」誌では経済人と音楽談義を繰り広げるなど、クラシック音楽のフィールドにも独自の足跡を記してきた。ベートーヴェンの生誕250周年に当たる2020年は〈ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2020〉のアンバサダーにも起用されていた。今年の〈ラ・フォル・ジュルネ〉(LFJ)の日本公演は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受け中止となったが、本拠地のフランス・ナント市へは今年1月末~2月初旬に駆けつけ、自身が子ども時代から抱いてきた〈ベートーヴェン愛〉を確かめることができた。

 家にレコードや本が並んでいたので、小学校3年生でピアノを習い始めたときから、ベートーヴェンは何となく気になる存在だったようだ。「学校の音楽の授業も、一部同級生のように〈かったるい〉とは思わず、好きで受けていましたね。クラシック音楽に関しての自分は、皆さんと同じように1人の愛好者でしかありませんが」と、まずは謙遜した。しかし「ベートーヴェンのイメージは?」と、あえてベタな質問を投げてみると案の定、鋭い感性の突出を思わせる答えが返ってきた。

 「ベートーヴェンの楽曲、僕には内省的に響きます。ストイックなひたむきさを覚えるのです。たぶん自分の中にある、そういう(内省的でひたむきな)部分と共鳴するのでしょう。なぜか冬になると、ベートーヴェンが聴きたくなります。逆にいえば、ベートーヴェンを聴くと、冬の訪れを意識するのです」

 ナント訪問も冬に当たったが、今まで抱いてきたのとは異なるベートーヴェンのイメージを体感したらしい。 「初めての体験でしたが、熱気がすごくて。聴衆の世代はやや高めながら、若者の姿も目立ち、ロックフェスティヴァルのようなノリがあって、名称(ハチャメチャな日)の通りでした。演奏も純粋な“第九”(交響曲第9番《合唱付》)からアレンジ物の歌まで、実に多彩です。ピアノの藤田真央さん、広瀬悦子さんら、日本人演奏家も活躍していました」

 改めて現地のコーディネーターに「フランスでベートーヴェンはどうなの?」と質すと、もちろん「すごく愛されていますよ」との返答。だが、ふかわは聴き慣れてきたドイツ系の演奏とは異なる「カラフルなベートーヴェン」に触れて「国による切り口の違い」を実感、「なぜ数多くのフレーズが世界各地で愛されているかの理由」に考えが至り、「音楽は国境を越える」との思いを新たにした。

 とりわけ“第九”、中でも第4楽章でシラーの詩にベートーヴェンが手を入れた歌詞の意味をナントで読み直し、「〈革命真っ最中の音楽〉とはっきり、意識しました」。そしてインタヴュー会場のテーブル上に置かれた「intoxicate」誌の表紙、〈東大全共闘〉を相手に熱弁を振るう三島由紀夫(作家)の勇姿に目をやり「三島さんも、ベートーヴェンみたいな人だったのでしょうか」と意外や意外、でも考えてみれば「なるほど」と納得せざるをえない想像力が飛翔した。