今年のラ・フォル・ジュルネのテーマは「ラ・ダンス 舞曲の祭典」。その真意は?

 2005年にスタートして以来、13回目を迎えるラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンのプログラム詳細が発表された(5月4・5・6日、東京国際フォーラム)。テーマは〈ラ・ダンス 舞曲の祭典〉。舞踊ではなく、〈舞曲〉という音楽の一ジャンルが中心となることについて、アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンはこう語る。

 「今回の狙いは、民衆の音楽がどれほどクラシック音楽に影響を与えたかを知ってもらうことにあります。民衆の音楽といえばリズム。リズムといえば舞曲。すべての振付芸術は17世紀から出現するものです。今回は作曲家たちがどのように民族音楽を取り入れていったかもテーマとなります。作曲家たちは常に大衆に注目してきました。舞踏会でどのようなダンスが踊られていたかも重要なことです」

 振付芸術が17世紀に始まったという観点は、バロック音楽の根幹にかかわる大問題であるが、ルネはこう補足する。

 「中世にはジョングルール(大道芸人、道化者たち)が宮廷で活躍していました。彼らは音楽家兼ダンサーでしたが、1660年代に太陽王ルイ14世が音楽と舞踊の専門化を進めていく方針をとったことにより、この時代に音楽と振付が分かれていくのです。バロック時代にはあらゆる音楽に舞踊の要素が反映され、作曲家たちは舞踊から影響を受けることになります。その最も美しい例がバッハの音楽ですね。ジーグ、アルマンド、クーラント、パッサカリアなど多くの作品には常に舞曲の影響が見られます。ここから始まって、バロック、古典派、ロマン派、現代曲をバランスよく配したのが今年のプログラムです。特に1850年代ごろからの国民楽派。自分たちのルーツを求めて作曲家たちは田舎に飛び出していきます。こうした音楽世界全体をお楽しみいただきたい」

 今回注目の個別の公演やアーティストを見ていこう。これを逃すと二度と聴けないであろう二大超レア作品が、ルネがこだわる20世紀合唱音楽の傑作、オネゲルの音楽劇“ダヴィデ王”、アルゼンチンの作曲家バカロフによる南米宗教曲“ミサ・タンゴ”。こうした大作を突っ込んでくるのは、音楽祭ならではの志の反映ともいえる攻めの姿勢であろう。メキシコの民俗音楽アンサンブル〈テンベンベ〉はバロック音楽的でダンサブルな演奏が特徴だが、それもそのはず、ヴィオールの巨匠ジョルディ・サヴァールがルネに紹介したグループなのだそうだ。アコーディオンの名手リシャール・ガリアーノは、本場ナントではここ数年参加を続けており、ルネの盟友ともいえる存在。ようやく日本のLFJ初登場となる。ジャズの挾間美帆の新作バレエ組曲の日本初演、小曽根真による“ボレロ”も大いに気になるところだ。

 ソリスト系では官能的な美音のピアニスト、ルイス・フェルナンド・ペレスによるオール・ファリャ・プログラムは必聴だし、ZigZagレーベルの全集でも好評だった世界最高のベートーヴェン弾きフランソワ=フレデリック・ギィの久しぶりの参加、ショパンやドビュッシーでの緻密なピアニズムを誇るアルゼンチン出身のネルソン・ゲルナーの初参加もうれしい。弦ではヴァイオリンのテディ・パパヴラミ、チェロのアレクサンドル・クニャーゼフといった近年好調の大物も戻ってくる。

 オケで個人的にイチオシなのはロベルト・フォレス・ヴェセス指揮によるオーヴェルニュ室内管弦楽団の再登場。ヨーロッパ最高のチェンバーオケと評されるまでに近年実力を向上させている彼らは、日頃の活動でオペラや協奏曲にも主体的に本気のアンサンブルで取り組んでいることを指摘しておきたい。

 上記はほんの一端に過ぎない。金沢の終了という残念なニュースもあったLFJだが、それだけにルネの今年の日本開催にかける執念はすさまじく、過去最強といってもいいくらいの充実した内容である。

 LFJの本質は、クラシック音楽の民主化であり、聴衆と音楽との関係を根本的に変容させることにある。演奏家ブランド主義からの脱却、楽曲そのものへの好奇心の喚起など、この音楽祭がもたらしたイノベーションの恩恵は筆舌に尽くし難い。その本質について触れた一冊、筆者の小著「ルネ・マルタン プロデュースの極意」(アルテスパブリッシング)も公式本として発売中なので、合わせてご注目いただければ幸いである。(text:林田直樹)

 


テンベンベ(メキシコ民族音楽)
メキシコから初来日! テンベンベによる、陽気でダンサブルなファンダンゴ・バロック
公演番号 132、216、223、333

 

ネルソン・ゲルナー(ピアノ)
アルゼンチン出身の注目のピアニスト、ネルソン・ゲルナーがLFJ初登場!
公演番号 133、156、222、316

 

リシャール・ガリアーノ(アコーディオン)
アコーディオンの世界的巨匠リシャール・ガリアーノによるタンゴへのオマージュ
公演番号 145、216、245、322

 

シモーネ・ルビノ(マリンバ・パーカッション)
今年のナントでも大絶賛! 注目の天才パーカッション奏者、シモーネ・ルビノが初登場!
公演番号 323、346

 

©Feng Hai

タン・ドゥン(作曲家)
スマート・フォンを使った観客参加型オーケストラ作品、タン・ドゥンの“パッサカリア”
公演番号 344

 

©Caroline Dourtre

フランソワ=フレデリック・ギィ(ピアノ)
世界が注目するベートーヴェン弾き、フランソワ=フレデリック・ギィが久々の登場
公演番号 141、232、257、325、352