英国ダンス・ミュージック・シーンの重鎮、コールドカット。マット・ブラック&ジョナサン・モアの2人が新たな挑戦を行うのは、〈ケレケトラ!〉という名の海を越えた音楽プロジェクトだ。
そのファースト・アルバム『Keleketla!』には南アフリカの音楽家とロンドン・ジャズ・シーンのプレイヤーが多数参加しており、クレジットには膨大な数のミュージシャンが名を連ねている。また、先日惜しくもこの世を去ったアフロビート・レジェンドのトニー・アレンの演奏も聴くことができるのが貴重だ。
アフロビートをベースに、南アフリカ音楽、UKジャズ、エレクトロニック・ミュージックなどが混然一体となった唯一無二の本作。新作『We Are the Sun!』をリリースしたばかりのTAMTAMのドラマー・高橋アフィが、その音楽性を詳細に解き明かす。 *Mikiki編集部
KELEKETLA! 『Keleketla!』 Ahead Of Our Time/BEAT(2020)
コールドカットがアフリカ音楽と生のグルーヴに取り組んだケレケトラ!
レーベル〈ニンジャ・チューン〉主宰であり、UKエレクトロ/ブレイクビーツの開拓者であるエレクトロニック・デュオ、コールドカット。彼らの新プロジェクト〈ケレケトラ!〉初の作品は、アフリカ音楽に本格的に取り組んだもので、南アフリカやUKのジャズ・ミュージシャンが多数参加しており、更に生演奏によるグルーヴが中心、という異色のアルバムだ。
そしてこのアルバムはコールドカットの作品であると同時に、多数のミュージシャンとの共同作業によって出来た作品でもある。本稿では参加したミュージシャンを見ていくことで、ケレケトラ!が実現した音楽は何なのかを明らかにしていきたい。
南アフリカ音楽、そのメロディーの繊細さと素晴らしさ
『Keleketla!』の一番大きな特徴は、南アフリカのミュージシャン達によるメロディーだろう。ズールーの音楽を基盤に持つギタリストのシブシル・シャバ(Sibusile Xaba)、またマロンボ※1を演奏するパーカッション奏者のタバン・タバネ(Thabang Tabane)は、共に南アフリカの伝統音楽をルーツに持つミュージシャンだ。多くの曲に参加しているシンガーのノノ・ンコアネ(Nono Nkoane)はアフリカ音楽を軸としたジャズを歌い、ヴォーカリストでフルート奏者のトゥバッツィ・モロイ(Tubatsi Moloi)が所属するアーバン・ヴィレッジはズールー・ロックやムバカンガ※2など南アフリカに根付いた音楽を演奏している。
彼らの音楽はフォークロア的なミニマルなコード感と美しいメロディーが特徴であり、そこが本作の楽曲の基盤となっている。そのメロディーや質感が全面的に取り入れられている“5+1”はもちろん、激しいビートの“International Love Affair”の歌にも注目してもらいたい。YouTubeにアップされているレコーディング・ドキュメンタリーに歌録りのシーンがあるのだが、それを観てもらえれば彼らの繊細なメロディーの素晴らしさがわかるはずだ。