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アフロビートを発展させた地上最強のドラマー。その終わりなき音楽探求の途上に遺された野心的なニュー・アルバム『There Is No End』がついに登場した!

最後に手掛けていたアルバム

 「私にとってトニーは、言葉抜きでいろいろなことを教えてくれる教師のような存在だった。亡くなってなおアーティストとしての素晴らしいヴィジョンに満ちているドラマーであり守護者だ」――そうコメントしているのはプロデューサーのヴィンセント・テーガー。フェラ・クティの創造したアフロビートを発展させてきたドラマーのトニー・アレンが2020年4月30日に亡くなってちょうど1年、その最後の作品『There Is No End』がいよいよ完成した。その60年近いキャリアについては旧譜のリイシューなどが整ったまたの機会にでも紹介するとして、ここでは新作に繋がる近年の流れを簡単にまとめておこう。

TONY ALLEN 『There Is No End』 Blue Note/ユニバーサル(2021)

 1940年、ナイジェリアのラゴスで生まれたトニー・アレンは、もともとラジオ局で働いていた際にアート・ブレイキーの音楽に感銘を受けてドラム演奏を始めている。64年にメンバー・オーディションを経てフェラ・クティのバンド=アフリカ70でドラムス/パーカッションを担当。フェラの膨大な作品で演奏してアフロビートの誕生~確立~発展に寄与し、並行して自身のリーダー作も発表するようになる。80年代にはフェラの元を離れてパリへ移住し、自身のアフロ・メッセンジャーズやアフロビート2000などを率いて活動する。その後はセッション・ミュージシャンとして活動しつつ、21世紀に入ってからは若い世代との交流が盛んになり、なかでもデーモン・アルバーンとはグッド・ザ・バッド&ザ・クイーンやロケット・ジュース&ザ・ムーンを結成するなど刺激的な縁を紡いでいった。17年に仏ブルーノートと契約してからもアート・ブレイキーのトリビュートやジェフ・ミルズらとの共作を自由に展開。20年3月にはヒュー・マセケラとのコンビ作『Rejoice』(録音は10年)を発表するも翌月には訃報が届いたのだった。

 このたび完成した『There Is No End』は、トニーが亡くなる直前までレコーディングしていた遺作と位置付けられるものだ。今作において彼が取り組んだのはヒップホップだ。かつてはタイの“The Willing”(03年)をプロデュースしたり、スヌープ・ドッグやバロジ、マニフェストらと手合わせしたこともあるトニーだが、今回は〈素晴らしい才能を持つ若い世代を世に送り出したい〉という意向を反映する形で、アップカミングな顔ぶれが多く起用されているのもポイントだろう。