Page 2 / 3 1ページ目から読む

後世への決定的なインフルエンサー角松敏生

今年1月に刊行されたディガー集団〈lightmellowbu〉による書籍、「オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド」(DU BOOKS)の編集大詰め作業として登場アーティスト名の索引一覧を作成しているとき、特に印象的だったことがある。1986年〜2006年という、一般的に〈シティ・ポップ黄金時代〉とされていた70〜80年代半ばを過ぎた後の期間における〈隠れたシティ・ポップ名盤CD〉を紹介する同書にあって、本文中、固有名詞として他を圧する頻度でその名前が登場するのが、角松敏生だったのだ(書名通り、〈オブスキュアな〉盤を紹介する趣旨の書籍なので、知名度の高い角松本人の作品は一枚も掲載されていないにもかかわらず)。

紹介されるCDに角松がプロデューサーとして関わっている旨が書かれているものから、アルバム内容に角松の音楽からの影響を指摘されているものまで、様々な文脈においてその名が度々語られている。一人のアーティストとして現在ではジャパニーズ・シティ・ポップを象徴する存在と目される角松だが、プロデューサーとしての旺盛な活動をはじめ、後に続く〈シティ・ポップ的なるもの〉の浸透と伝播とを形作った決定的インフルエンサーであったことも知れるのだった。

 

角松敏生の幅広い仕事を網羅した2作のコンピ

この度登場した2作のコンピレーションCD、『角松敏生ワークス -GOOD DIGGER-』(ソニー)、『角松敏生ワークス -GOAL DIGGER-』(キング)は、彼のプロデューサー/コンポーザー/アレンジャーとしての魅力を味わうのにうってつけの作品だろう。杏里や中森明菜、中山美穂、JADOESといった代表的なプロデュース・ワークスから、新人ヴォーカリスト発掘&紹介オーディション・プロジェクト〈VOCALAND〉の関連曲、また、Tokyo Ensemble Lab、青木智仁、NOBU CAINE、友成好宏といった玄人好みの盟友的プレイヤーたちの作品まで、その幅広い〈仕事〉の数々が網羅されている。

2CDとなるソニー編、1CDのキング編ともに、タワーレコードのスタッフによる現在の現場感覚濃厚な選曲で、角松敏生に深い敬愛を捧げる韓国人DJ/プロデューサーのNight Tempoらが牽引する〈フューチャー・ファンク〉的センスでも鑑賞したいダンサブルな曲が揃っていることも特筆すべきポイントだろう。

2作とも満遍なく〈美味しいところ〉がしっかりと選曲されている印象だが、あえていえばソニー編は、2枚組というそのヴォリュームを活かしたなかなかマニアックなチョイスが魅力だ。特に、大御所シンガーと意外な邂逅を果たした、〈布施明 MEETS KADOMATSU〉名義の“IF YOU LOVE SOMEBODY”(96年)や、角松の敬愛する先達・佐藤博の楽曲をダンス仕様にリミックスした“ANGELINE -Extended Power Club Mix-”(87年)などは個人的にも嬉しい収録だ。

VARIOUS ARTISTS 『角松敏生ワークス -GOOD DIGGER-』 ソニー(2020)

一方キング編は、同社原盤の中山美穂や今井優子作品をはじめとして、岩崎宏美などの女性アーティストが歌った圧倒的完成度の楽曲を中心にコンパクトにまとめられ、一枚を通して聴いたときの統一感が抜群だ(その陰で、フュージョンの隠れ名作、Pacific Coast Jam feat. D.J.Pratt, Fred Schreuder“LIKE LIKE HWY”を収録するなど心憎い要素も)。

VARIOUS ARTISTS 『角松敏生ワークス -GOAL DIGGER-』 キング(2020)