多種多様なキャラクターを演じわける役者としての優れた表現力や独特な佇まいが、ひとたびマイクを握れば音楽の世界でも活きる俳優たち――。専業のアーティストとはまた一味違った趣に溢れる彼らの歌が、時にその時代を象徴する大ヒットや長く聴き継がれる名曲となることは少なくありません。そんな役者ならではの歌の魅力に迫るべくスタートした連載〈うたうたう俳優〉。音楽ライターにして無類のシネフィルである桑原シローが、毎回、大御所から若手まで〈うたうたう俳優〉を深く掘り下げていきます。

第7回は、“もしもピアノが弾けたなら”のヒットで歌手としても人気を博した西田敏行や、「ドラえもん」に代表される声の演技で日本中から愛された大山のぶ代、アイドルシンガーとしても一時代を築いた中山美穂など、2024年に惜しまれながらこの世を去った俳優・声優たちが残した音楽を振り返ります。 *Mikiki編集部

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西田敏行はロックンロールもお手の物だった?

今年亡くなった俳優たちを偲びつつ、ゆく年を惜しむ今回の〈うたうたう俳優〉。ひとり目は、日本映画界を牽引した名優、西田敏行。彼のキャリアを振り返るとき、「みごろ!ゴロゴロ!大放送!!」で毎度、パートナーの武田鉄矢と共にレビュー調のコントをやっていたことを真っ先に思い出す人はもうあまりいないかもしれないが、歌って踊って笑わせる素晴らしきエンターテイナーという側面は今後も積極的に語られていくべきだと思う。

そんな彼の歌手としての代表作は、主演ドラマ「池中玄太80キロ」パートIIの主題歌だった“もしもピアノが弾けたなら”(1981年)だろう。“木綿の愛情”で1977年5月に歌手デビューを飾ってから4年、世間に歌手としての力量を認めさせることになったこの大ヒットシングル。不器用な男のペーソスあふれるモノローグ、といった印象の阿久悠による歌詞をしっかりと演じ切り、とかくトラブルメイカーになりがちだけどどこか憎めないユニークなキャラクターというイメージ形成に大きく影響することになる。

個人的な嗜好としては、パートIのテーマ曲に用いられた4枚目のシングル“風に抱かれて”(1980年)に肩入れをしたくなるところがある。作曲は、当時「俺たちは天使だ!」の主題歌“男達のメロディー”や「探偵物語」のテーマ曲“Bad City”“Lonely Man”などのヒットを飛ばしていたSHŌGUNの芳野藤丸。“風に抱かれて”は、SHŌGUNが1979年9月にリリースしたシングル“走れ!オールドマン”のB面として世に出ていた曲をカバーしたもので、アーバンなサウンドを基調とした爽やかなポップチューンとなっており、メロウなメロディーと西田のふくよかなボーカルがみごとにマッチした好曲だ。

ドラマティックなバラードやミュージカルタッチのダンス曲などを演らせたら右に出る者がいなかった西やんだが、ロックンロールもまたお手の物で、大滝詠一のカバー“いかすぜ!この恋”(1980年)を聴けばきっと納得してもらえるだろう。エルヴィス・プレスリーの楽曲の邦題をならべて構成した歌詞をはじめ、言わばパロディーソングに分類可能なこちらのロックンロールナンバーを持ち前のリズム感を駆使してカッコよく歌い切っている。もともと西田の持ちネタであったエルヴィスの物真似がここではあまりにハマりすぎていて、実際のところ、オリジナルよりも完成度が高かったりもする。

大滝作品ではもう1曲、“ロンリー・ティーン・エイジ・アイドル”(1980年)も見逃せない。こちらは書き下ろしのオリジナル曲で、リッキー・ネルソンの“Teenage Idol”を念頭に置いて作られたミディアムバラードなのだが、それを“いかすぜ!この恋”同様にエルヴィス調で強引に歌い切ってしまった西やん。勢い勝ちである。

西田敏行 『ゴールデン☆ベスト 西田敏行』 Sony Music Direct(2013)