コラム

ブルックリン・ヒップホップの歴史とレゲエの深い関係

ブルックリン・ドリルのルーツ、UKとの共通点を探る

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ジョーイ・バッドアスとプロ・エラ周辺に聴く2010年代ヒップホップ × レゲエ

2000年代の後半から2010年代の半ば頃にかけて、ヒップホップの世界では〈フリー・ダウンロードでミックステープを発表して名を売る〉ことから成功を掴む流れが定着していた。ミックステープには、著作権的にはグレーなビート・ジャックやフリースタイルも多く収録され、スピード感と活気あるシーンが形成されていった。このフリー・ダウンロードのミックステープ文化から、ブルックリンのラッパーのジョーイ・バッドアス(Joey Bada$$)とその仲間たちのプロ・エラ(Pro Era)もブレイクを果たした。

ジョーイ・バッドアス及びプロ・エラが注目を集めるきっかけとなったのは、ジョーイ・バッドアスが2012年に発表したミックステープ『1999』だ。同作はチャック・ストレンジャーズ(Chuck Strangers)やスタティック・セレクター(Statik Selektah)らのオリジナルのビートも使用していたが、ビート・ジャックも数曲収録していた(その中にはUKのルイス・パーカーのビートも!)。

ジョーイ・バッドアスもまた、ジャマイカ系のラッパーだ。ジョーイ・バッドアスの初期のミックステープではその色は薄いが、2015年にリリースしたアルバム『B4.Da.$$』ではジャマイカン・アクセントでのラップを披露。ジャマイカのレゲエ・ディージェイのクロニクス(Chronixx)と、レゲエの影響を感じさせるUKのシンガーのマーヴェリック・セイバー(Maverick Sabre)も客演に招き、レゲエ色を強調した。

ジョーイ・バッドアスの2015年作『B4.Da.$$』収録曲“Belly Of The Beast (Feat. Chronixx)”“On & On (Feat. Dyemond Lewis & Maverick Sabre)”

そしてプロ・エラは同時期に登場したブルックリンの2つのグループ、フラットブッシュ・ゾンビーズ(Flatbush ZOMBiES)とアンダーアチーヴァーズ(The Underachievers)と団結して大型のコレクティヴ〈Beast Coast〉を結成。プロ・エラのCJ・フライ(CJ Fly)と、フラットブッシュ・ゾンビーズのメンバーのミーチー・ダーコ(Meechy Darko)もレゲエからの影響を強く感じさせるラップ・スタイルで人気を集め、シーンの話題を浚っていった。

そして、プロ・エラが登場した2012年頃は、チーフ・キーフらシカゴ・ドリルのシーンが注目を集めた時期でもあった。ジョーイ・バッドアスとチーフ・キーフは共に95年生まれと世代的にも近く、毎年注目ラッパーを選ぶXXL Magazineの名物企画〈Freshman Class〉の2013年版で共に選出されている。彼らの音源上での共演はなかなか生まれなかったが、2015年にはシカゴ・ドリルを代表するラッパーのG・ハーボ(G Herbo)が“Lord Knows”でジョーイ・バッドアスをフィーチャー。 ブルックリン・ドリル誕生前夜のブルックリンとシカゴの交点がそこにあった。

G・ハーボの2015年のシングル“Lord Knows (Feat. Joey Bada$$)”

 

ブルックリン・ドリル誕生へ、ポップ・スモークの遺作とレゲエ

ジョーイ・バッドアスが頭角を現していった頃、ミックステープはフリー・ダウンロードの時代だった。しかし、2010年代半ば頃からSpotifyやApple Music等のサブスクリプション型ストリーミング・サーヴィスが台頭すると、フリー・ダウンロードのミックステープ文化は衰退。それに伴い、ストリーミングでの配信の際に著作権の問題を抱えるビート・ジャックはミックステープに収録されることが少なくなっていった。そして、それと入れ換わるようにタイプ・ビートの文化が発展。予算とコネクションの少ない新進ラッパーの制作に貢献し、大きな存在感を持つようになっていった。

プレイボーイ・カルティ(Playboi Carti)やスモークパープ(Smokepurpp)など、エリアを問わず多くのラッパーがチーフ・キーフからの影響を公言していることからも窺えるように、2010年代の始まりと共に大きな衝撃を与えたチーフ・キーフとドリル・ミュージックの影響力は計り知れない。それは恐らくブルックリンでも例外ではなかったのだろう。そして、ブルックリンの新進ラッパーの22Gzが、UKのプロデューサーのAXL・ビーツ(AXL Beats)が手掛けた〈‘Hop Out’ drill type beat〉と題されたビートを発見し、ブルックリン・ドリルが誕生した

22Gzの2016年のシングル“Suburban”。22GzはYouTubeでAXLビーツの“‘Hop Out’ drill type beat”を見つけ、それにラップを乗せた

UKドリルのビートは、シカゴのドリルにグライムやUKガラージの影響が加わって独自に発展したものだ。グライムもUKガラージも、そのルーツを辿るとダンスホール・レゲエの存在がある。UKドリルのビートにも、ドラム・パターンやベースラインなどにその影響を感じることができる。

ジャマイカ系のポップ・スモークやチャブ・ロックと同じようにジャマイカ出身でブルックリンに移住したスリーピー・ハロウ(Sleepy Hallow)など、ブルックリン・ドリルのラッパーの中にはカリブ系のルーツを持つラッパーも多い。UKドリルをレゲエの延長線上にあるものとして考えると、ブルックリン・ドリルはブルックリンのヒップホップが80年代から取り組んできたレゲエ要素導入の最新版と捉えることができるのではないだろうか。

そして、それを踏まえて故ポップ・スモークの遺作『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』とそのデラックス・エディションを聴いてみると、レゲトンのカロル・G(Karol G)やアフロ・ポップのバーナ・ボーイ(Burna Boy)といったレゲエ周辺ジャンルのアーティストの参加や、ダンスホール・レゲエ路線の“She Feelin Nice”などの曲に、商業的成功以外の意図も見えてくる。

ブルックリン・ドリル、そしてブルックリンのヒップホップ全体がこの先どうなっていくのか。これからも目が離せない。

ポップ・スモークの2020年作『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』収録曲“Enjoy Yourself (Feat. Karol G)”

ポップ・スモークの2020年作『Shoot For The Stars, Aim For The Moon (Deluxe Edition)』収録曲“She Feelin Nice (Feat. Jamie Foxx)”

 

2020年9月9日追記
記事初出時、内容に誤りがございました。謹んでお詫びし、訂正させていただきます。 *Mikiki編集部

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