嘘のない内容

 今回の曲作りでは「必ずしも音ありきで書くんじゃなくて、集中して書いたほうがいいってなったらイヤホン外して、字数だけ合わせて書く時もあった」とも話すBES。これまでがそうであったように、それがみずからに向きあった末の結果だとすれば、アルバムが街に生きる一人の男の姿をリアルに映し出すのも必然だろう。センティメンタルなピアノの響きと共に滑り出すGRADIS NICEのビートに、〈排ガスと偽善で固めた〉東京で、〈いつになればこの不安が消える/綱渡りのLIFE〉と吐かずにいられぬ“理由”は、そんなアルバムの幕開けを飾る一曲。続く“Surviving Fraction”では、過去作でもほぼもれなく共演してきたSCARSの盟友STICKYをフィーチャーし、ふたたびGRADIS NICEのシンプルなトラックで、身を置く現実にもがく姿を映す。〈ストレスがパンチラインの肥やしになる〉(BES)、〈上手く行くのは偽物ばっか/誰でも書けそうなラヴソングは/2秒で消す/俺らとは違う〉(STICKY)と、それぞれに繰り出すラインも耳を引く。

 さらに続く“Mr.Ethiopean”では、同じくGRADIS NICEの手による、ウワネタに敷く単音がクセになるビートに、〈自分失う無茶苦茶なLIFE〉で出くわした、とある顛末を盛り込んで放つ〈結局待つのはルンペンかJAIL/苦味と痛み織り交ぜたGAME〉との一節が象徴的だ。そして、LIi'Yukichi制作のダークなトラックに、〈正気でいるのもつらい毎日/賞味期限近づいてく毎日〉と漏らす、次の“Rhyme Bombz”……順を追ってアルバムで語られていく、彼が言うところの〈嘘のない〉内容には、過去の話も少なくないようだが、危うい現実のフチをギリギリ渡り、語り草ともなる曲をモノにしてきた彼の孤独な戦いは現在も続き、そこに巣食う困難や苦悩、葛藤がその音楽にいまなお大きく根を張っていることは、本作からも明らかだろう。Kojoeが音を手掛けた“まず一言”や、MASS-HOLEのドス黒いオケに見事応えた“B.K.S”、ビートにNAGMATIC、客演にBLAHRMYの2人を迎えた“Lockdown Story”などももちろん例外ではない。

 「Kojoe君とは一緒に曲をやるまでは時間かかったんですけど、向こうから曲に入ってほしいって言われたのが最初。それが今回“Live in Tokyo”を作ってもらったCRAMのアルバムでKojoe君とISSUGIとの3人でやった曲で(『The Lord』に収録の“The Lord”)。Kojoe君のトラックは内容をどうするか、どう書けばいいか悩みました。BLAHRMYとも前から一緒に曲をやろうって言ってたんですよ。それで今回誘って、みんなパクられたことあるんでそれで一曲いこうって話して。一見華やかに見えても、いつ〈うまい飯が明日くさい飯になるか〉ってMILES君がリリックで言ってて、ホントうまく締めてくれましたね。“B.K.S”はビッグ・Lの“Devil's Son”みたいな感じのビートだなと思って、聴いた瞬間にこういうのが俺に合ってるんじゃないかなっていうのもあったんで作ってみました」。