これが自分のやれること

 BESをラッパーとしてここまで駆り立ててきたものが、何よりも我が身に降りかかる逆境だったとすれば、音楽を続けていくこと自体、決して楽なことではなかったはず。しかし、それでも彼は夢を救いにマイクを握り続けた。ISSUGI客演の“道端の淡い夢に幸あれ”で彼は歌う。〈凍てつく街に飲みこまれないように/今も変わらずマイク握ってる〉と。いまここにいない仲間や彼に関わってきた人々、そして自身に幸あれと歌うこの曲がそうであるように、BESにとって音楽は祈り、希望であり、その音楽は〈昨日よりも今日/今日よりも明日〉に向かうのだ。彼はこう話す。

 「食うか食われるかみたいな状況のなかで結局食われちゃったじゃんっていう人を周りでも見てきたし、自分もいろいろなしがらみにここ数年苦しんで、そこでどう踏ん張るかっていう問題があって、金を作んなきゃいけないとか、ホントはやりたくないけど金になるからやるとか、いろいろ生活の葛藤があったんですけど、最終的に(アルバムの)リリックを聴き直すと、やっぱりこれが自分のやれることだなって」。

 本作の制作を終えたBESには、早くも新たなリリースのプランが持ち上がっているという。そうした近年のコンスタントな動きを見るにつけ、以前から彼の心にちらついていた引退の影もいささか遠ざかったかのように見えるが、彼の胸の内にはなおその2文字がくすぶり続けている。

 「物事はそう思い通りに進むわけでもないし、周りに〈辞めるって言わなくてもいいんじゃない?〉って言われたりとかして、そのへんはブレちゃってるんですけど。まあラストスパート中なんで」――彼を見てきた一人として、どんな道を進むにせよ、その歩みが光ある方向に向かっていることを願わずにはいられない。最後にふたたびリスナーに向けたBESの言葉を引こう。

 「今回のアルバムもまあ好き嫌いあると思うんですけど、普通にサラッと聴いてもらって、気に入った曲があれば何回も聴いてもらえればいいなと思いますし、また新しいのが出たらどっかで聴いてほしいです」。 

BESの近作を紹介。

 

BESの参加した近作。

 

『LIVE IN TOKYO』に参加した面々の関連盤。