ニューウェイヴ精神がいかんなく発揮された大人のポップス

 音楽、映画、演劇など、様々な分野で活躍する二人の奇才、鈴木慶一とKERAが結成したユニット、No Lie-Sense。屈折したポップ・センスと遊び心溢れる実験精神を併せ持った彼らの新作『駄々録~Dadalogue』は、〈ダダイズム〉をネタに暴走する。

No Lie-Sense 『駄々録~Dadalogue』 Columbia(2020)

 「ダダって全てを否定する破壊衝動の塊みたいな芸術運動で、シュルレアリズムとかロシア・アヴァンギャルドに派生していくプロトタイプみたいなものだったじゃないですか。パンク/ニュー・ウェイヴに通じるものがあると思うんですよね」(KERA)

 パンク/ニューウェイヴは二人がリアルタイムで影響を受けたムーヴメントで、No Lie-Senseの重要なエッセンスだ。でも、「ダダをどんなサウンドにしようかなんて深く考えたりしなかった」(鈴木)そうで、「ダダをよく知らない二人が好き勝手にやってる感じにした方が面白い」(KERA)ということにしたのが、スーダラなNo Lie-Sensらしい。キャプテン・ビーフハートがマンボをやったようなビザールさ満点の“ah-老衰mambo”で幕を開けて、ディスコとロシア民謡が新宿の裏通りで出会ったような“マイ・ディスコクイーン”などキャラが強い曲が並ぶなか、本作のハイライトと言えるのが、謎のミュージシャンがメドレーを繰り広げる“鳥巣田辛男ショウ”だ。鳥巣田を演じているのは、シンガー・ソングライターの高野寛。

 「鳥巣田っていうのは、フォークとかポップスとかパンクとか、いろんな音楽に手を出して中途半端におわったやつなんですよ。高野の歌声は我の弱そうな感じとか、説得力があるんですよね(笑)」(KERA)

 「メドレーで歌っている曲は全部この曲用に作った。鳥巣田が歌うことを想定してね。アルバムの中で突然、知らない歌手が歌い始めることで、聴いてる人を混乱させるわけだ」(鈴木)

 ちなみに〈鳥巣田辛男〉という奇妙な名前は、ダダ詩人、トリスタン・ツァラをもじったもの。そんな遊び心もNo Lie-Senseの得意とするところ。本作には三木鶏郎の“チョンボマンボ”のカヴァーが収録されているが、ノベルティ・ソングのハイセンスなナンセンスさをニューウェイヴ的実験精神で昇華したのがNo Lie-Sense的ダダイズムなのかもしれない。

 「慶一さんのなかにも、僕のなかにもある要素のひとつが三木鶏郎。そういう部分が、No Lie-Senseならではの装飾によって形になっていくことが楽しくて仕方ないんです。だって、周りを見渡してもこういう音楽をやってる人は他にいないですからね」(KERA)

 「我々は真面目にふざけてる。名前の通り嘘(Lie)つくセンスがない二人だからね(笑)」(鈴木)