インタビュー

マルティン・シュタットフェルト(Martin Stadtfeld)に訊く新作『マイ・ベートーヴェン』

「軽やかさ、優しさを備えた楽観を伝えたい」

©Ingrid Hertfelder

「軽やかさ、優しさを備えた若い日のベートーヴェンの楽観をお伝えしたい」

 マルティン・シュタットフェルト(1980-)が新譜『マイ・ベートーヴェン』をカイザースラウテルン(ラインラント・プファルツ州)の南西ドイツ放送協会(SWR)スタジオでセッション録音したのは2020年1月8~10日。「もちろん録音時点で新型コロナウイルスなど、全く意識していませんでした。3月中旬以降は一切の演奏会がキャンセルされ、自宅に待機です」

 『マイ・ベートーヴェン』のオリジナルは『Beethoven für Kinder(ベートーヴェン・フュア・キンダー=子どものためのベートーヴェン)』と題された、CD2枚のセットだ。作曲家の生誕250周年にちなむ〈Hörspiel(ヘアシュピール)〉として企画した。ヘアシュピールは〈聴く芝居〉を意味するドイツ語。日本の朗読劇やラジオドラマとは似て非なる表現の領域だ。

 2枚目はソロ・アルバム。「最初はヘアシュピールの〈おまけ〉くらいに考えていましたが、テイクを重ねるうち、音楽だけ聴くのも悪くないと思うようになっていったのです」。モニターを聴きながら、シュタットフェルトは「まさしく自分にとってのベートーヴェンだ」と気づき、ドイツ語圏外では、ディスク1枚の『マイ・ベートーヴェン』として発売することを決めた。

 収録曲数は11。最初は作曲家の生地ボンのベートーヴェン・ハウス協会が生誕250年記念祭に先立ち、楽曲完成に至らなかったスケッチ(下書き)をシュタットフェルトに提供、「新たな『即興曲』にまとめてほしい」との委嘱に基づいて作曲した“ベートーヴェンのスケッチ断片による幻想曲”だ。

 「いつかはピアノ・ソナタ全32曲の連続演奏会(ツィクルス)や全集録音(ボックスセット)に挑みたいですか?」と、ダメもとで訊いてみた。「私にとっての芸術はどこまでも個人的事象ですから、〈全部〉をライフワークとする可能性は皆無ですし、ボックスの価値も信じません」。期待?通りの反応だった。「最も共感するのは鍵盤の名手(ヴィルトゥオーゾ)として颯爽とウィーンに現れながら、居酒屋で民衆が歌う素朴な音楽や自然界も愛し、軽やかさ、柔らかさ、優しさを兼ね備えた若き日の幸福なベートーヴェンです。社会との闘い、耳の病の悪化などで気難しさを増したとされる晩年においても人間の根源的な力を信じ、どこまでも前へ進み新しい世界を切り拓こうとしました。肯定的な人生観やユーモアを持ち続け、神への感謝と人類全体への責任感を忘れなかったのです」

 録音時期が11年も隔たっているにもかかわらず、前作『Der Junge Beethoven(デア・ユンゲ・ベートーヴェン=若きベートーヴェン)』と今回の『マイ・ベートーヴェン』の選曲と聴後感には一貫した流れがある。

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