(C)Marco Borggreve

 

自作を織り交ぜて描いた、ショパン練習曲の新たな小宇宙

 2004年リリースのJ.S.バッハ《ゴルトベルク変奏曲》で、衝撃の録音デビューを飾ったドイツの若き実力派ピアニスト、マルティン・シュタットフェルト。以来、知的で個性溢れるディスクを数多く世に送り出してきた彼が、約1年ぶりに新譜を発表した。これまでは、J.S.バッハ、モーツァルトベートーヴェンシューマンといったドイツものが中心だったが、今回は初のショパン・アルバムに挑戦。《作品10》と《作品25》の練習曲(全24曲)を曲順に演奏しつつ、数曲ごとにシュタットフェルト自作の《10の即興》を挿入しているのが面白い。

MARTIN STADTFELD Chopin + Sony Classical(2017)

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 「当盤の完成までには3つのステップがありました。第1段階は、数年前から公演でショパンの練習曲とJ.S.バッハの前奏曲を交互に弾くようになったこと。第2段階は、ショパンの練習曲を弾き続ける中で、この全24曲をツィクルスのように捉えるようになったこと。そして第3段階として、このツィクルスをより流れよくまとまりのあるものにするために、間奏曲のような即興を自作して挟み込みました」

 《10の即興》の完成までには、約2年もの歳月を要したという。

 「この練習曲は、J.S.バッハの《平均律クラヴィーア曲集》に影響を受けて生まれました。ですから私は、ショパンのコラールや和声感が強調されて浮かび上がるような即興を書き進めることにしたんです。初稿は比較的短期間に書き上げたのですが、各曲とも修正を何度も行ったので、最終稿が完成したのは録音当日でしたね」

 今年7月にベルリンのイエス・キリスト教会でセッション収録された当盤の演奏では、いわゆるショパンの演奏にありがちな抑揚をあまり付けず、淡々とした流れの中で構築性の高い演奏をしているのが印象的だ。

 「彼の作品はどうしても旋律性に重きが置かれることが多いので、今回は構造性にスポットライトをあてたくて。往年の巨匠アルトゥール・シュナーベルは、ショパンを“右手の作曲家”と評しましたが、私はそうではないことを証明したかったのです(笑)」

 日本でのライヴの実現も待たれる、当盤の斬新で充実したプログラム。今後録音したいショパン作品を尋ねたところ、実にシュタットフェルトらしい答えが返ってきた。

 「ショパンのピアノ協奏曲の再構築版ですね。現在、友人の作曲家に作曲を依頼中で、うまくいけば来年あたりに録音したいと思っています。現存する作品とは全く違った形になる予定なので、私も完成をとても楽しみにしているところです」

2015年のパフォーマンス映像