サミュエル・T・ヘリングは〈明るい陰キャ〉?
――実際に本人たちと対面したときはどんな印象を受けましたか? 彼らの人となりを教えてほしいです。
佐藤「彼らは……美大オタクというか、いま流行りの言葉でいうと、陰キャですかね(笑)。サムは明るめの陰キャ(笑)」
田中木里子(Beatink)「サムは日本に来た時、自分から挨拶しにきてくれたんですよ。こちらより先にアーティストから声をかけてくれることってまずないんですけど、サムはその場にいた全員に〈はじめまして。ヴォーカルのサムです〉と挨拶してまわってて。そんなアーティストってなかなかいないので、とても印象に残ってます」
山本「そう、サムはとにかく腰が低いんですよね。終演直後に楽屋を訪ねて〈素晴らしいショーだったよ!〉と伝えたら、彼は熱を帯びた口調で〈ありがとう! 僕らは本当に日本に来たかったんだ。また必ずくるからね〉と、ライブ終わりで汗だくのまま満面の笑みで話してくれて、この人は本当にいい人だなと」
佐藤「サム、すごい汗でしたよね。海から上がってきたばかりのような汗だった(笑)」
――ウィリアム・キャッション(ベース/ギター)とゲリット・ウェルマーズ(キーボード)はどんな人たちなんですか?
佐藤「サムもそうですけど、フューチャー・アイランズはみんな基本的にシャイな人たちですね」
田中「そうですね。ベースのウィルはこの自粛期間中にかなり体を鍛えたらしくて、今は体型がだいぶ細くなったみたいです(笑)」
山本「キーボードのゲリットは、パッと見た感じだとミュージシャンには見えないというか、ビジネスマンみたいな佇まいだったな」
田中「ゲリットはすごく面白い人なんですよ。というのも、彼は表情がまったく変わらないんです。それを気にかけた他のメンバーが〈彼は今すごく楽しんでるから安心してね〉と私たちに言ってくれたんですけど、それにしても無表情で(笑)。でも、どうやらメンバーが言ってたことは本当だったみたいで、ゲリットは内心めちゃくちゃ日本を楽しんでて、彼だけは一人で朝5時まで飲んでたんです(笑)」
佐藤「ゲリットは日本の古いレコードを趣味で集めているらしくて、あのときもマライア(清水靖晃のバンド)のレコードを探し回ってましたね」
これはもう絶対フジロックに呼ばなきゃ
――ライブの印象はいかがでしたか?
佐藤「正直にいうと、実際に観るまでは〈なんだかんだイロモノなのかも〉と思ってたんですけど、いざライブが始まったら、これがもうめちゃくちゃ素晴らしくて。あの予測不能なパフォーマンスにすっかり圧倒されたし、とにかくサムは歌が上手いんですよ」
山本「僕も最初のうちは〈めちゃくちゃ動くモリッシーだ!〉とか言ってたんですけど(笑)、そこから先はライブが進むほどに驚きと感動の連続でした。
始まったときは思わず笑ってしまったサムのパフォーマンスも、あれは別に面白おかしく見せようとしてるんではなくて、本気で表現しているからあの動きと歌唱になってるんだってことがよくわかってきて。最初から最後までずっと楽しかったし、今これほどのパフォーマンスができるバンドはそういないなと。これはもう絶対に〈フジロック〉に呼ばなきゃと思いました」
――サムのパフォーマンスは「レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」に出演して話題になる前から、ずっとあのスタイルを貫いてるんですよね。本人からすればまったくウケ狙いではないんだろうなと。
山本「そうなんですよね。先日の配信ライブ(2020年10月9日に配信された〈A Stream Of You And Me〉)もそうでしたけど、拳で胸を叩く時の音をちゃんとマイクで拾っていたり、彼の動きはどれも考え抜かれたうえでのパフォーマンスなんだろうし、そこでカメラが寄ってこようがこなかろうが、普通にあれをやるんだろうなと。本当にサムはフォトジェニックだなと思いました」
佐藤「実際、僕はあの来日公演以降、フューチャー・アイランズの映像を以前よりもよく観るようになったし、音源もよく聴いてますからね」
山本「同じく。あれ以来、僕もふとしたときにフューチャー・アイランズのライブ映像を観たくなるんですよね。
ただ、TV番組とか配信でのライブだとスペースが限られてるじゃないですか。でも、実際のライブでは広いステージの右から左までサムが動き回るので、あれを〈フジロック〉の大きなステージで観れたら、もの凄いことになるんじゃないかな」