豊田道倫『GRAND LOVE』そこにあるのは振り絞るような絶唱とロック・バンドの演奏だけ

2021.01.08

CDを再生すると同時に、堰を切ったように音の塊が耳に雪崩れ込んでくる。ギター、ベース、ドラム。ロックだ、と思った。

5月にバンドで吹き込んだ“明るい夜”、8月にギターと歌のみで記録した“ケダモノの涙”、とシングルを配信で発表していた豊田道倫は、『ROCK‘N’ROLL 1500』(95年)のリリースから数えて25周年にあたる2020年を4曲入りのEP『GRAND LOVE』で締め括った。本作のリリースにあたって、豊田は「デビュー25周年記念作をクリスマスに。新レーベル〈25時〉から。格好いいサウンドをただ目指した。サブスク、MVなし。CDでガツンと鳴らしてほしい」とツイートしている。

真っ白いジャケットには〈GLMT〉の文字と25時のロゴ、裏面には曲目と短いコメント、内側には歌詞とパーソネルが掲載されている。虚飾はない。感傷もない。MVを制作しないという姿勢からも伝わってくるように、視覚的な情報を一切排して、余計なものを抜きに「格好いいサウンド」だけで勝負をする、そんな意志が伝わる。

表題曲の“GRAND LOVE”は、がしゃがしゃとかき鳴らされるエレトリック・ギターと時折分厚くうねるノイズ、重たいビート、そして転がるような電子音が折り重なってロールしていく。メンバーは豊田に加え、SEAPOOLの白井景(ドラムス)、須原敬三(ベース)、半野田拓(ギター/電信音)、沼の染谷藍とタカハシシカロ(コーラス)、みのようへい(シェイカー)という7人。その演奏にはどこか前のめりで不安定なニュアンスがあって、いまにも決壊しそうな生々しさに満ちている。これまで数えきれないほどのミュージシャンたちと共演し、mtvBANDやザーメンズなど、バンドの集合と離散を繰り返してきた豊田だが、今回はどうしても昆虫キッズとの共演盤『ABCD』(2009年)を思い出さずにはいられなかった。

バンドの演奏もさることながら、豊田のヴォーカル・パフォーマンスに激しく心を揺さぶられる。〈たとえば〉のパーカッシヴな節回し、〈あのひと〉〈愛〉〈離さないで〉の振り絞るような〈あ〉の音、臓腑の奥から吐き出される〈全部〉の発声。絶唱とは、こんな歌のことを言うのではないか。

〈GRAND LOVE〉とは、飾らずに訳せば〈でかい愛〉だろうか。俗世のあらゆるもの(そこには〈恋〉や〈愛〉すら含まれている)をかなぐり捨てて、〈二人の時間だけを〉求める詞は、ラブソングという入れ物、その定型を踏み越えてしまったような、異様な大きさをもっている。

16ビートを中心にした“9フライト”からシームレスに、木霊する人々の会話に包まれたドリーミーな“天空図書館”へ。“天空図書館”では、〈大学校〉や〈大会社〉などの〈大〉きなものと〈本〉を読む行為とが対比されている。最後は、“GRAND LOVE”を弾き語った“道倫、不倫、絶倫(仮)”。15分とちょっと、たった4曲しかなく、実質的には3曲だが、不思議な重みと厚みがあり、なによりも物語がある。

豊田はジャケットの裏面のコメントで、新型コロナウイルス禍の2020年を地下鉄サリン事件が起こった1995年に重ねている。あとから考えれば、酒鬼薔薇聖斗事件が起こった1997年までのモラトリアムとも言える1996年=2021年。そこには、なにが待ち受けているのだろうか。豊田道倫は、そこでなにを歌うのだろうか。

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