音楽の記事が中心のMikikiですが、作家や写真家、映像作家、漫画家、演劇関係者など関わってもらう方は多種多様。そこで、音楽関係以外の表現者のみなさんが好きな音楽は?という興味からスタートさせたのが連載〈My Favorite Songs〉です。毎回、1人の選曲者が設定したテーマと、それにもとづく3曲以上の選曲を記事化。〈あの人がこの音楽を好きだったんだ〉という発見や、音楽とほかのカルチャーのクロスオーバーを楽しんでもらえたら幸いです。第13回は、「北千住BOOK SODOM」の開催と「書店からきた女」の上演を控える劇団・遊星Dの主宰者/劇作家である梢はすかさんが登場。 *Mikiki編集部

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選曲によせて

「書を捨てよ、町へ出よう」――そう言って劇場を飛びだした寺山修司は、1970年代に市街劇とよばれる演劇手法を発明しました。それから半世紀をへだて、人気歌手が「うちで踊ろう」と呼びかけるパンデミックの季節も過ぎた東京で、わたしはかつて銭湯だった地下空間の中に、小さな街を造ろうとしています。その偽物の街では、各地からやってきた書店や作家が本をならべ、現実に本が売り買いされ、また市街劇ならぬ〈書店街劇〉が上演されるのです。この倒錯した欲望は、わたし自身のものなのか、それとも、寺山に捨てられた本が見る夢か、はたまた、ソーシャライズされたディスタンスの復讐か――。

これからご紹介する3曲は、まだ見ぬ〈書店街劇〉のイメージを形作るうえで、楽曲の内容にかぎらず作家の方法論やライブパフォーマンスに至るまで、大いに参照させてもらいました。どうか偽物の書店街にも、心おちつく猥雑な音楽があふれますように。アーメン。

 

YOASOBI “夜に駆ける”
(2021年作『THE BOOK』収録曲)

YOASOBI 『THE BOOK』 ソニー(2021)

街には、メインストリート(大通り)が必要です。〈小説を音楽にする〉という手法からヒットソングを次々と生み出し、いまや世界規模のトップアーティストである彼/彼女たちが地上波初パフォーマンスを披露したステージは、角川武蔵野ミュージアム内の〈本棚劇場〉でした。あの瞬間、書店街劇はすでに始まっていたのかもしれません。

 

JAZZ DOMMUNISTERS  feat. I.C.I “革命”
(2017年作『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』収録曲)

JAZZ DOMMUNISTERS 『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』 TABOO(2017)

街には、インターセクション(交差点)が必要です。異なる声、異なる言語、異なる記憶が交錯するところに複雑な陰影が生まれ、ポエトリーは血と汗と香水の匂いを放ち始めます。――ところで、台本を書いている最中は全然意識していなかったのですが、この曲中に登場する三つの都市名と、今回の演劇の主人公が旅する土地が、なんと完全一致していることに今気づきました! 観劇の予習としてもお薦めの一曲です。

 

豊田道倫 “The End Of The Tour”
(2013年作『m t v』収録曲)

豊田道倫 『m t v』 HEADZ/WEATHER(2013)

街には、ダウンタイム(黄昏)が必要です。この曲の歌詞に出てくる人びとは皆、どこか疲弊している。そんな〈ただ今日という日を優しく終わろうとしてる〉人びとの様子が、価値づけされることなく、淡々と受け容れるように書き留められていく。やがて、〈狭くて暗い部屋だけど 風を感じた〉というパンチラインが訪れるとき、聞いている自分の心にも風が吹き抜けていくのです。こんな演劇が作れたら、と思わせてくれる理想の一曲です。

 


INFORMATION
遊星D「北千住BOOK SODOM」+「書店からきた女」

元銭湯の地下スペースに書店街「北千住BOOK SODOM」を立ち上げ、その中で演劇「書店からきた女」を上演するイベントです。会期中は書店街を自由に回遊でき、演劇は書店街全体を舞台に展開します。

■「北千住BOOK SODOM」出店者
機械書房/本屋lighthouse/All Books Considered/ISBbooks+鹿のデコイ/南十字/代わりに読む人(友田とん)/零貨店アカミミ(柿内正午)/Mourir d’ennui/イデア絶対つかむズ/窮理舎/空想と地図の企画室/コバヤシフミカ/燦燦たる午餐/四角三人衆/下嶋やゆん/スナックあや/もゅぷっ工務店/遊星D
※出店者は日替わりです

詳細:https://note.com/yuseid/n/n232d585cb84d

「書店からきた女」あらすじ
「その命、書店に返してもらいます――。」

十五歳のある朝、父は突然いなくなった。
残されたのは仲の悪い姉と猫のハーモニー、そして“本”だけ。
父の痕跡と働き口を探す少女・本城まなみは、
隣町の〈小六洲(ころす)ブックセンター〉で書店員・金と出会う。

それから10年後。
まなみは書店員に、金は店長になっていた。
〈小六洲ブックセンター〉には、読む者に「憲法をも書き換える力」を授ける禁書、
『共同体の胎(うてな)』が眠っている。

年に一度の棚卸しの日。
〈小六洲ブックセンター〉は邪悪な万引き集団〈五人のイヴ〉に襲撃され、
生き残ったのはまなみ一人だけだった。
盗まれた禁書を取り戻すべく、まなみの孤独な復讐劇が幕を開ける。

■「書店からきた女」クレジット
作:梢はすか
演出:旦妃奈乃
出演:名古屋愛/辻村優子/鈴木正也/こばやしかのん/荒若梨緒/穂高/*高橋利明[20日のみ]/*こっちゅん[21日のみ]/*北條風知[22日のみ](*同役、日替わりキャスト)
空間創造:旦妃奈乃/徳丸倖汰/山元汰央/中務航
舞台監督:桝永啓介
制作:大蔵麻月

■「書店からきた女」公演スケジュール
2026年3月20日(金・祝)~22日(日) 各日1回公演
20日(金・祝) 17:00開演
21日(土) 17:00開演 ★終演後アフタートーク(ゲスト:伏見瞬)
22日(日) 14:00開演 ★終演後アフタートーク(ゲスト:掟ポルシェ)
※受付開始:開演45分前
※上演時間:90分(予定)

■チケット料金
☆「北千住BOOK SODOM」入場券
当日:1,000円
※予約不要、当日券のみ

☆1日券「北千住BOOK SODOM」入場+「書店からきた女」鑑賞
前売/当日:4,000円/4,500円
予約受付中:https://yuseidkbs.peatix.com/

 


PROFILE: 遊星D
梢はすかと演劇をつくる小規模な集まり。独自の編集的発想に基づき、複数作家の戯曲をシームレスに繋ぎ合わせた上演や、DJのように書店内で大量の本をミックスしながら朗読するパフォーマンスなどを展開。〈分別しにくい作品〉をそっと世に投げかける姿勢が、多方面の少数派から支持されている。
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