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セルフ・プロデュースでの完成度

 そう、WDWが約9か月の充電期間に試みたのは、いわゆる〈歌って踊るグループ〉から〈楽器を演奏するバンド〉への転身。しかも従来のように著名プロデューサーやソングライターの楽曲提供ではなく、メンバー主導で曲作りを進めたいという意欲も込めての考えだ。前年の配信シングル群における共同プロデュース/コライト参加はその前ぶれだったわけだが、彼らは一足飛びに自分たちの望む作品作りへと体制を切り替えたのである。そうやって完成したのが今回のセカンド・アルバム『The Good Times And The Bad Ones』だ。

WHY DON'T WE 『The Good Times And The Bad Ones』 Signature/Atlantic/ワーナー(2021)

 アルバム全編のプロデュースも先行カットと同様、ダニエルとジェイセン・ジョシュアが共同で担当。ほとんどの曲でダニエルは鍵盤とギター、プログラミング、さらにはエンジニアリングまでも担当しており、そのリーダーシップぶりには目を見張る。もともと15歳の時にオーディション番組「アメリカン・アイドル」ファイナリストとして脚光を浴びた彼は、並行して20種類以上の楽器演奏に習熟してきた才能の持ち主。先述の“Fallin'(Adrenaline)”ではカニエ・ウェスト“Black Skinhead”からサンプルしたドラム・ビートで新生WDWの勢いを強調しているが、こうした意匠も彼のアイデアなのかもしれない。

 サンプリングという意味では続く“Slow Down”もおもしろく、ここではスマッシング・パンプキンズの名曲“1979”がメロウに引用されている。ドラムを叩くのはMGKなども手掛けて好調なトラヴィス・バーカー(ブリンク182)で、彼は乾いた雰囲気のポップ・ロック“Lotus Inn”とディープで妖しい“Look At Me”でもプレイ。キャリアのある助っ人という意味では、緩急あるアンビエント・ベース“For You”にスクリレックスが、アトモスフェリックな“Stay”にティンバランドが、それぞれ助力しているのも注目だろう。他にはドンテ・ウィンスロウがストリングスを仕立てた美麗なスロウ“Grey”では西海岸R&Bの重鎮ケネス・クラウチがピアノを弾き、ミュージシャンではファレル作品で著名なギタリストのブレント・パシュケも要所で援護している。

 とはいえ、そうした布陣を取り立てて強調する必要がないほど、5人のやりたいことは定まっていたようで、どの曲を聴いてもWDWならではのブレない個性が浮かび上がるのだから凄い。今後はメンバー各々の志向や特性がもっと表に出てくるはずだし、完全なバンド演奏による楽曲も期待できるだろう。予想外の完成度の高さという嬉しい裏切りもあって、この先のWDWがさらに楽しみになってきた。

関連盤を紹介。
左から、ホワイ・ドント・ウィーの2018年作『8 Letters』(Signature/Atlantic)、楽曲を提供した2019年のサントラ『Ugly Dolls』(Atlantic)、スマッシング・パンプキンズの95年作『Mellon Collie And The Infinite Sadness』(Virgin)、ブリンク182の2019年作『Nine』(Columbia)