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コラム

ヴァレリー・ジューン(Valerie June)『The Moon And Stars: Prescription For Dreamers』ソウルフルな夢心地のアメリカーナ

©Renata Raksha

ソウルフルなサイケデリアへと昇華される夢心地のアメリカーナ——ジャック・スプラッシュと共に紡ぎ上げた圧巻のニュー・アルバム!!

 「夢を見て愚かになったことはある? それは恋人からのキスのような小さな夢かもしれないし、キング牧師やジョン・レノン他の多くの人が人類のために持っていた平和という大きな夢かもしれない。あなたの夢が大きくても小さくても、信じ続けて。あなたを愚か者と呼ばせて!」。

 ヴァレリー・ジューンは自身の“Call Me A Fool”についてこのようにコメントしている。夢心地なサザン・ソウル・マナーで包まれたこの楽曲は彼女のニュー・アルバム『The Moon And Stars: Prescription For Dreamers』からの先行シングルだが、そこに(ナレーター的な役割ながら)カーラ・トーマスを担ぎ出してきたのには驚いた。カーラといえば、“Gee Whiz”(61年)のヒットで知られ、オーティス・レディングと並んで60年代初頭からスタックスを支えてきた〈元祖メンフィス・ソウルの女王〉である。過去作でもブッカーT・ジョーンズと共作/共演していたり、メイヴィス・ステイプルズに“High Note”を提供、はたまたサンのトリビュート盤『Red Hot: Memphis Celebration Of Sun Records』(17年)に参加するなどメンフィス由来のレジェンドには並々ならぬ思い入れと縁のあるヴァレリーだが、そんな土地や伝統への愛は、今回の新作においても現代的に表現されている。

 ヴァレリー・ジューンはテネシー州ジャクソンで82年に生まれたシンガー・シングライター。一口にアメリカーナと形容するのは容易いが、ブルースやソウル。ゴスペル、ブルーグラス、アパラチア・フォークまでを内包した音楽性は唯一無二だ。幼い頃から地元の教会でゴスペルを歌い、父親の影響でソウル/R&Bに親しんだ彼女は、19歳からメンフィスで演奏活動を開始している。転機となったのは2010年代に入ってからで、NYはブルックリンに移って、ダン・オーバック制作の初アルバム『Pushin' Against A Stone』(13年) をリリース。同作の好評を受けてジェイク・バグらのツアーに帯同し、ミシェル・オバマからホワイトハウスに招待されてもいる。メイヴィス・ステイプルズへの楽曲提供などを経て、2作目『The Order Of Time』を発表した2017年には初来日公演も実現。同作がボブ・ディランのお気に入りにとして話題になったのも記憶に新しいだろう。

VALERIE JUNE 『The Moon And Stars: Prescriptions For Dreamers』 Fantasy/Concord(2021)

 『The Moon And Stars: Prescription For Dreamers』はそれ以来のサード・アルバムとなるが、彼女が今回の共同プロデューサーに迎えたのはジャック・スプラッシュだ。00年代半ばからメインストリームのR&B作品に数多く関わってきたジャックは、アリシア・キーズやシーロー・グリーン、メイヤー・ホーソーンらとの仕事で知られ、趣味性の高い意匠によってレトロ・ソウル~モダン・ヴィンテージの流行に先鞭を付けたひとりでもある。その後はボビー・コールドウェルとクール・アンクルを結成、近年はセイント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズを手掛けてもいたが、そんな奇才とヴァレリーのコンビネーションは作品に絶妙な独自性をもたらすことになった。

 「今回のアルバムでは、これまで行ってきた〈同じ部屋でのバンド〉というアプローチに、現代的な要素をどうやって採り入れられるか見てみたかった」とジューンは語る。伝統への敬意を払いながらも折衷性を失わない両者の手捌きは、アーシーな南部ソウルのプロダクションにサイケ・フォークやソフト・ロックのエレガンスを持ち込み、魅力的なヴォーカルに不思議なオーケストレーションで固有の煌めきを与えている。フェラ・クティのアフロビートからトニー・ヴィスコンティのストリングス・アレンジに至るまでを研究して取り込んだというそのセンスはまさにジャックならではで、この到達点によってヴァレリーはさらに大きな賞賛を手にするに違いない。

 「私がなぜ音楽を作りたいという夢を持っているのかがこのアルバムでようやく明らかになった。それは賞を獲りたいとか誰かの愛が欲しいという理由じゃなく、夢を見ることで探究心を持ち続け、世界と共有すべきものを学び続ける道を歩めるから。私たちが子どもの頃のように夢を見ることを許せば、自分の中にある光に火をつけ、私たちが生きる方法についての魔法のようなものを手にすることができる」。

 いまの人々に本当に必要な音楽とはこういう形をしているのかもしれない。

左から、ミシェル・ンデゲオチェロの2012年作『A Dedication To Nina Simone』(Naive)、メイヴィス・ステイプルズの2016年作『Livin' On A High Note』(Anti-)、2017年のコンピ『Red Hot: Memphis Celebration Of Sun Records』(Americana Music Society)、ジェシー・ハリスの2018年作『Aquarelle』(Secret Sun)、ヴァレリー・ジューンの2013年作『Pushin' Against A Stone』、2017年作『The Order Of Time』(共にConcord)、ジャック・スプラッシュがプロデュースしたセイント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズの2018年作『Young Sick Camellia』(Records)、カーラ・トーマスのボックスセット『Let Me Be Good To You(The Atlantic & Stax Recordings 1960-1968)』(SoulMusic)

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