D Smoke “Sade”
天野「3曲目は、D・スモークが〈Spotify Singles〉のシリーズで発表した新曲“Sade”。D・スモークは2019年にNetflixのオーディション番組『リズム+フロー』で注目を集めた遅咲きのラッパーで、傑作『Black Habits』を発表して昨年ブレイク。もともとは高校の先生をしていただのとか」
田中「今年のグラミー賞で最優秀新人賞にノミネートされていますね。彼はいま35歳なので、〈新人〉の意味も広がったなと思いました。夢がある話です。肝心の新曲は曲名どおりシンガーのシャーデーに捧げた一曲で、リリックは……〈Spotify Singles〉だからでしょうか、まだGeniusに登録されていません! ただ、〈音楽は人々を別の場所に連れて行ってくれる〉〈音楽よ、お前が俺のただ一人の妻〉というラインが胸に刺さりましたね」
天野「D・スモークは“Sade”について〈レジェンドのシャーデーに敬意を払って、俺自身の過去の愛にまつわる葛藤を語った〉と言っています。真摯でいいな~。最高です!」
spill tab “PISTOLWHIP”
田中「スピル・タブはフランス系韓国人のクレア・チーチャ(Claire Chicha)によるソロ・ユニット。彼女は以前、ガス・ダパートンのツアーでマーチャンダイジング・マネージャーを務めていたのだとか。オアシス結成以前のノエル・ギャラガーがインスパイラル・カーペッツのローディだった、という逸話を思い出させる経歴ですね」
天野「むりやり無関係なオアシスネタを突っ込んできましたね……。スピル・タブの“PISTOLWHIP”には驚きました。以前の楽曲を聴いてみたら、メロウでアンニュイな作風で、良くも悪くもベッドルーム・ポップ然としたサウンドだったのですが、新曲はハードでノイジー。焦燥感を醸し出すハンマー・ビートと強烈なグリッチ・ノイズが耳を引きます」
田中「〈ハイパーポップ版シューゲイザー〉とでも呼びたいサウンドですね。今後も彼女に注目したいと思わせる、パワフルな一曲でした」
Lucy Dacus “Thumbs”
天野「SSW、ルーシー・デイカスの新曲“Thumbs”。ルーシー・デイカスは、最近はフィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーとのスーパーグループ〈ボーイジーニアス(boygenius)〉での活躍も話題ですよね」
田中「2019年にカヴァーも含めてシングルを8曲もリリースしていた彼女ですが、2020年はソロの楽曲を発表していません。ひさびさのこの曲では、ドローン/アンビエント的な音をバックに、静かに歌い上げます。もともとは2018年の秋に書かれたもので、ソロやボーイジーニアスのライブで歌われていたのだとか。この曲についてのステートメントには、大学1年生の頃に友人と過ごした一日の物語を歌ったものだ、とあります。フィービーとジュリアンに勧められてライブで歌うようになった曲だそうです」
天野「ライブでは観客に〈録音しないで〉とお願いしていたそうですね。歌詞には〈あなた(you)〉というルーシーの友人と、その友人の父である〈彼(he)〉が登場して、ルーシーと19歳の友人が5年間不通だった友人のお父さんと会う、というストーリー。ルーシーは〈あなた(友人)が許すなら彼(友人の父)を殺してやりたい〉〈どうしてあなたが笑っていられるのかわからない〉と歌い、友人に〈あなたとお父さんの血の繋がりは偶然、彼に負い目を感じることはクソほどもない〉と語りかけます。複雑な家族関係を歌った、とても親密な一曲ですね」