田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。まずは前週にお伝えした、SpotifyでK-Popの一部の楽曲が聴けなくなった事件についての続報を。Spotifyと配信元のKakaoMとが再契約を結び、配信が再開されたそうです」
天野龍太郎「あと今週の話題といえば、日本時間では3月15日(月)の午前中に開催される〈第63回グラミー賞〉ですよね。先週この連載で取り上げたブルーノ・マーズ&アンダーソン・パークのユニット、シルク・ソニック(Silk Sonic)のパフォーマンスが急きょ決まったのだとか」
田中「作品がノミネートされないなど、グラミーとの間でさまざまなトラブルを抱えていたウィークエンドは〈やつらは秘密委員会だ、今後作品をエントリーしない〉と、グラミーをボイコットすることを明らかにしました。いろいろな問題が噴出しているグラミーですが、コロナ禍で娯楽の限られているいまだからこそ、僕は華やかな舞台とパフォーマンスを楽しみたいなと思っています。それにしても年間最優秀レコードは何になるんでしょうかね?」
天野「う~ん、そうですね……。というよりも僕は、人種差別の問題など、山積した課題をグラミーがクリアしてくれることをまず一番に望んでいます。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
Jorja Smith “Addicted”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はジョルジャ・スミスのニュー・シングル“Addicted”です! スミスは英ウェスト・ミッドランズ、ウォルソール出身のアーティストで、現代UK R&Bシーンを代表するシンガーですよね。僕は彼女の歌、大好きなんです。〈SUMMER SONIC 2018〉でのライブも観ましたし」
田中「スミスは、2016年のノスタルジックなシングル“Blue Lights”と2018年のデビュー・アルバム『Lost & Found』で成功を収めた新星です。2020年はブルーノート × UKジャズの企画作『Blue Note Re:imagined』に参加して、トラップ・ソウル調の“By Any Means”とポップカーンをフィーチャーしたダンスホール“Come Over”というシングルも発表しています」
天野「この“Addicted”は、〈十分な配慮をしてくれない人に、十分な配慮をしてあげたい〉という思いから生まれたそうです。歌詞は〈selfish(利己的)〉という言葉が目立ちますね。あと、トリップ・ホップやポスト・ロック的な浮遊感のあるプロダクションがおもしろいなと思いました。プロデューサーは同じUKのジョエル・コンパス(Joel Compass)。アメリカのR&Bだとこうはいかないなと。ウェブカメラで撮影したというプライヴェートな趣のミュージック・ビデオもおもしろいので必見です」
Paul McCartney “The Kiss Of Venus (Dominic Fike)”
天野「これは話題曲ですね! ポール・マッカートニーが昨年12月にリリースした『McCartney III』の収録曲“The Kiss Of Venus”を、米フロリダ出身の若手シンガー・ソングライターであるドミニク・ファイクがカヴァー。ポップ界最大の生きるレジェンドとZ世代のスター、という組み合わせがおもしろいですね」
田中「『McCartney III』はポールがすべての楽器を演奏したという宅録的な作品でしたし、ベッドルーム・ポップ的な音作りを得意とするドミニク・ファイクが“The Kiss Of Venus”をどう調理するかは興味深かったです。いざ聴いてみると、ポール以上にポールっぽいウェルメイドなポップスに仕上げられていて、思わずニンマリしてしまいました。後期ビートルズ × ウイングス的な、サイケデリックでビッグなアレンジがいいですね」
天野「4月16日(金)には、ベックやフィービー・ブリジャーズ、デーモン・アルバーンらが『McCartney III』の楽曲をカヴァー/リミックス/再構築したアルバム『McCartney III Imagined』がリリースされます。参加ミュージシャンの顔ぶれからして、とてもおもしろい作品になっていそう。個人的にはクルアンビンによる“Pretty Boys”が楽しみです!」