藤井 風 “旅路” 色々あるけれど、それぞれの旅路に幸あれ、と藤井 風は歌う

2021.03.15

2020年、デビュー・アルバム『HELP EVER HURT NEVER』でJ-Popの世界に旋風を巻き起こした藤井 風。同年10月には日本武道館でのワンマン・ライブを成功させるなど、YouTubeで積み上げてきたものがあるとはいえ、デビューから短期間で人気アーティストにのぼり詰めた。それだけではなく、タワーレコードの〈タワレコメン・アーティスト・オブ・ザ・イヤー〉への選出や、先日授賞式が行われた〈SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021〉で〈BEST BREAKTHROUGH ARTIST〉を受賞するなど、高い評価も獲得している(なお『HELP EVER HURT NEVER』は〈第13回CDショップ大賞2021入賞〉にも選出されており、大賞の受賞が期待される)。

まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの藤井 風が、新曲“旅路”をリリースした。2021年1月から放送がスタートしたテレビ朝日のドラマ「にじいろカルテ」の主題歌で、2020年12月に連続リリースした『へでもねーよ EP』『青春病 EP』以来の楽曲である。

へでもねーよ”は、エレクトロニックでノイジーなプロダクションとヘイトやマウンティングへの怒りを滲ませた歌詞もあいまって、アグレッシヴな曲だった。対して“青春病”は爽やかなポップソングで、〈青春病〉に別れを告げる曲ではあるものの、切なげなメロディーに乗せて歌われるのは〈儚いもの〉や〈どどめ色〉をした病に憑りつかれたまま生きる者の迷いだった。

そんな2曲を経た“旅路”は、“へでもねーよ”の刺々しさや“青春病”の刹那主義をすべて包み込むような、たおやかで、とても温かい一曲だ。

それにしても……なんて感動的な曲だろう。

プロデュースは、『HELP EVER HURT NEVER』や前2曲に続いてYaffle。ノスタルジックなブレイクビーツと藤井 風が弾くウーリッツァーの柔らかい響きが絡み合う。ブリッジでさりげなく聴こえてくるのはアフリカの親指ピアノだろうか。ソウルフルなアレンジが優しいメロディーとあいまって、強く胸を打つ。

楽曲もさることながら、ミュージック・ビデオを見ていると思わず涙腺が緩んでしまう。藤井 風の出身地である里庄町や母校・岡山城東高校などの風景を暖色のフィルムで切り取ったMVは、観る者が自身の過去を投影してしまうようなつくりで、画面が横幅の狭いスタンダード・サイズなのもまたぐっとくる(コロナ禍でままならない学生生活を送った母校の卒業生たちに贈る「報道ステーション」でのパフォーマンスも、この曲の感動をより一層深いものにしてくれる)。

“旅路”について藤井 風は、「にじいろカルテ」の主演・高畑充希のナチュラルな演技に感銘を受けたといい、「だから、わしももっと自然で、自分の内側から勝手に溢れてくるような、あったかい音楽を添えられたらなと思いました。それが結果的に、この作品を、この作品を生きる皆さんを、作品に触れる皆さんを、後ろからそっと見守って、時々ふわっと包み込んでくれるような、そんな音楽になっていたらいいな」とコメントしている。

包み込んでくれる、とはまさに“旅路”をそのまま表している。特に、先に書いた“青春病”とは対になっているような印象で、〈もう大丈夫 旅路は続く〉〈色々あるけど/あーあ/いつの間にかこの日さえも懐かしんで/全てを笑うだろう/全てを愛すだろう〉と歌う“旅路”は、“青春病”の迷える主人公を、まるで年老いた老人か、あるいは寛大な神の視点からおおらかに肯定しているかのよう。高畑充希の「人生を少し俯瞰から、そしてゴール地点に近い場所から眺めているような曲で、初めて聴いた時に、あたたかさと同時に心地のよいドライさを感じました」というコメントもまた、この曲の核心をついている。

生きる喜びに満ちあふれたときもあれば、死んでしまいたくなるほどの悲しみに塞ぎこむときもある。なにかを得ることもあれば、反対に失うこともある。人生のさまざまな局面を、ロング&ワインディングな起伏の多い道のりを、〈色々ある〉という平易な言葉で包み込んで、そのすべてを尊い瞬間として抱きとめる“旅路”は、透き通ったゴスペルのように響く。それぞれの〈旅路〉に幸多からんことを――藤井 風は、“旅路”でそんなことを歌っているように思う。

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