〈難しい〉よりも〈楽しい〉というマインドで、どんな楽曲でも息の合った立ち回りを見せるマイク・リレー。カッコ良いタフさを備えた5人の勢いは止まらない!

 現行のさまざまなシーンと呼応する攻めたビート、カラフルでポップなサウンド、それらを乗りこなす堂に入ったパフォーマンス……現在の5人編成になってからのlyrical schoolは、その短くはない歴史を通じて培ってきたチャームを振り撒きながら、シンプルにカッコ良い楽曲を届けるタフなグループへと成長を遂げてきた。フル・アルバムとしては約1年半ぶりとなる新作『Wonderland』には、自身の最高到達地点を余裕で更新していく彼女たちの姿が何とも痛快に刻み付けられている。

lyrical school 『Wonderland』 ビクター(2021)

 「いまの5人のメンバー編成になってから、それまでとはちょっと違った〈カッコ良いリリスク〉を見せるスタイルにだんだんと変わってきたと思います。そういう変化にメンバーの実力や個性も見合うようになってきたんじゃないかと。今回の『Wonderland』は5人体制になってからの集大成的なアルバムですね。それぞれの個性がこれまで以上に強く出ていると思いますし、リリスクのカッコ良い側面も顕著に表現できているんじゃないかと思います」(minan、以下同)。

 全編を通じて耳を奪われるのが、5者5様の流儀で息の合った立ち回りを見せるマイク・リレー。テクニカルなトラックも、ある種の余裕すら感じさせる所作で自分たちのものにしており、そのパフォーマンスの有り様が実にクールに響く。

 「今回のレコーディングは最初の緊急事態宣言が明けたくらいの時期に始まったんですけど、それまでメンバーは充電期間のようなものを過ごしていて、きっと次のライヴやレコーディングに向けてインプットをしたり自分のスキルを磨いたりすることに時間を使っていたと思うんです。それもあって、それぞれがそれぞれの魅力的なところを伸ばしてレコーディングに臨めたのかなと感じています」。

 今作の一番大きなポイントとしてminanが挙げたのが、3人の女性ラッパーの参画だ。「以前から好きだったKMさんにプロデュースしていただいたというところから喜びがありました」と興奮気味に語られるレイドバック・チューン“TIME MACHINE”はLil' Leise But Goldが作詞を担当。ミニ・アルバム『OK!!!!!』にも参加したvalkneeはオリエンタルな趣の“SHARK FIN SOUP”と煌びやかでフューチャーな“FIVE SHOOTERS”に自身の作品とも繋がる個性的なリリックを提供している。そして、Rachel(chelmico)が作詞だけでなく作・編曲にも携わった“Fantasy”はミュージカルの一場面のようにコロコロと曲調が変貌していく、チャーミングでいて挑戦的なナンバーだ。

 「もともとRachelは友達なんですが、Rachel本人がアイドル好きだったりすることもあるし、同世代で同じ音楽業界にいるということもあるし、そういう目線から、アイドル本人が思っていたり抱えていたりしても表に出さない部分をこの曲を通して表現してくれたなと思っています」。

 そのほか、lyrical school恒例の夏曲“YABAINATSU”のようなアップに問答無用で昂揚させられる一方で、PESが手掛けた“Bright Ride”の抑制の効いたトーンも印象深い。こうしたアゲ一辺倒ではないメロウで滋味深いサウンドをしっかり血肉にしているあたりにも、グループとしての成熟を感じさせる。

 「ライヴのとき、“YABAINATSU”だったら力技で盛り上げることもできる。でも“Bright Ride”はそうはいかない曲ですよね。メンバーの表現力がついてきたからこそ、こういう曲も乗りこなせるようになったのかなと思います」。

 これまででもっとも多彩な楽曲が揃った『Wonderland』だが、どんなサウンドも巧みに捌くメンバーの度量と力量あってこそ、この多彩を極めたアルバムが成立しているように思える。各々の個性を自由かつ楽しげに炸裂させる現在のlyrical schoolにはアンストッパブルな勢いしか感じない。

 「アルバムには難しい楽曲もあったんですけど、今回のレコーディングは〈難しい〉という気持ちよりも〈楽しい〉という気持ちが勝っていました。〈こんな難しい曲、無理〉みたいなメンタルのメンバーは誰もいなかったと思います。むしろ、次はどんな曲がくるんだろう、どんな新しいことに挑戦させてもらえるんだろうと感じていて。いまはそういうワクワクしかないんです」。

『Wonderland』に参加したアーティストの関連作品を一部紹介。
左から、アナの2019年作『時間旅行』(SECOND ROYAL)、valkneeが参加したコンピ『S.D.S = 零 =』(EM)、chelmicoの2020年作『maze』、PESの2012年作『素敵なこと』(共にunBORDE)

 

lyrical schoolの近作。
左から、2019年作『BE KIND REWIND』、2020年作『OK!!!!!』(共にビクター)