私が大好きな映画に、岡崎京子さんの漫画を原作とする「チワワちゃん」がある。

 東京のクラブに集まって青春を謳歌する若者たちのなかで、千脇良子、通称チワワちゃんは、恋にお金に自由奔放で、ただいるだけで人を惹きつけてしまうような女の子だった。しかしある日、彼女は何者かに命を奪われてしまう。久々に集まった仲間たちは彼女を偲び、それぞれの記憶の中のチワワちゃんについて話す。しかし、語られる彼女の姿はバラバラで、キラキラした偶像の裏に、孤独や不安を抱えた姿が浮かび上がってくる。結局、誰も本当のチワワちゃんを知らなかったのだ。

 DIVA・ゆっきゅんさんがこの作品について語った言葉が忘れられない。正体の掴めないチワワちゃんを〈アイドル〉のようだと述べたうえで、それは「あなたが見た私が本当の私ですって言える存在」「他人の幻想の中にそれぞれ存在しうる自分を受け入れられる人」と定義付けていた。アイドルとは、数多の〈個人の眼差し〉を受け止める存在なのだと。その言葉に胸を打たれた。

 無数の眼で捉えられた先の自分まで好きになることも厭わない人々(アイドル)と、時には、彼ら・彼女らが放つ魅力や、本人も気づかなかったり、むしろコンプレックスに思っている部分さえも愛することができる人々(お客さん)。両者の奇跡的な関係は、儚くも、美しい。

 時には誰からどのような眼差しで見られているのか考え過ぎてしまうこともあるけれど、この出会いに憧れてしまったから、私はいまここにいるのだ。この作品とゆっきゅんさんの言葉を通して、アイドルという職業について改めて向き合うことができた。

Have a Nice Day! 『DYSTOPIA ROMANCE 4.0』 avex trax(2019)

 映画のエンドロールで流れるHavea Nice Day!の“僕らの時代”を紹介する。この曲を聴くたびにチワワちゃんの姿を思い浮かべ、ひとりじゃない、と自分自身に言い聞かせる。

 


【写真と文】hana:8人組のHIP HOPユニット、 lyrical schoolでMC/ヴォーカルを担当。lyrical schoolでは現体制での初作『DAY 2』(ビクター)に続き、“dance"が配信中。そして、 7月30日には待望のニューEPとなる『LIFE GOES ON e.p.』のリリースも決定しました! さらなる最新情報は〈https://lyricalschool.com/〉にて!