LAのダウンタウンにあるロサンゼルス・コンベンション・センターにて、アメリカの独立記念日を祝う週末をまたいで開催されたのが〈アニメエキスポ2014〉だ。13万人もの来場者を記録、しかもその多くがコスプレで来場したという、LAでも最注目のイベント。来場者数もそうだが、その客層の幅広さはまさに感嘆もの。ママたちに連れられた5歳児、60代のオタク風男性、超セクシーな衣装に身を包んだホットなアジアン・ガールたち、セーラームーンに扮した中年男性たち、ピース・サインを振りまいてあちこちで写真に納まるチェックのスカートを穿いた黒人の女子高生たち、細部まで凝ったカラフルな手作りコスチュームをまとった学生たち、色褪せたアニメTシャツを着たガサツっぽい男たち、きらめくコスチュームを身にまとったトランスジェンダーたち。そして、そこに次回のアニメ・フェスに着ていくための衣装やアクセサリーを買い漁る客が入り混じり、会場はごった返していた。もっとも多いのはやはり学生くらいの若者だが、それより上の年齢層も珍しくはなく、なかには1992年のイベント第1回目開催から来ているという参加者もいるというから驚きだ。
〈アニメエキスポ〉は本来、日本のアニメに特化したイベントだが、なかには「スターウォーズ」やマーベル・コミックスなどのキャラクター(スパイダーマン、X-メン、アイアンマンやトランスフォーマー)の衣装もちらほら。ほかのコンベンション(見本市)では日本やUSのアニメやコミックを合同で取り扱うこともあるし、そこにさらにSFものや人気のTV番組/映画をいっしょくたに扱うものもある。LAの南のサンディエゴで開催される〈Comic-con(コミコン)〉はコミックアニメに特化しているが、どちらかというとバットマンやスーパーマンなどのアメリカン・コミック・ヒーロー寄りと言える。アニメ・コンベンションは、実質的にはアニメの制作に何らかの関わりのある人であれば誰でも参加できるようだ――作家、イラストレーター、キャラクター・デザイナー、制作会社の広報担当、アニメ・ソングの歌い手、吹き替え担当(英語版の吹き替え担当も含む)など、参加者は実に幅広い。
一方、規模の大きいコンベンションは往々にして日本人ゲストを招こうと画策するが、どうもお金がかかりすぎるのと言葉や文化の壁が立ちはだかり、かなり困難なようだ。US国内のクラブ・レベルの中堅バンドであればバンド・メンバーとマネージャー1人で済むところを、日本人アーティストは悪評高いことにメンバー以外の多くのスタッフも引き連れて来ようとするので、ますます招聘が難しくなるのだ。そんななか、今年のメジャーなコンベンションではアニメ「デスノート」の主題歌で人気を博しているナイトメアの姿があった。テキサスで開催されたそのコンベンションで、彼らは6,200人ものアニメ・ファンの前で熱い演奏を披露。また、アニメの主題歌を数多く手掛けているFLOWや、「FLCL(フリクリ)」の楽曲を担当したthe pillowsも人気が高い。なお、ピロウズの場合は予定や予算が合わず本家の参加が難しい場合でも心配ご無用。アニメ・コンベンションではお馴染みのベテランであるthe pillowsのカバー・バンド、The Pillowcasesが穴埋めをしてくれるだろう。ピロウズのカバー・バンドは彼ら以外にもOver AmpやFunny Bunniesなどたくさんいるというから驚きだ。
アニメそのものはたしかに日本発祥のものかもしれない。しかしアニメ・コンベンションはある意味US発のものかもしれない。USでは遡ること25年ほど前から開催されてきており、いまではその当初とはまた異なる性質のものに変貌しつつある。もともとコンベンションは商品や情報を交換する場だった。インターネットが普及する前はアニメのビデオテープ(VHS)を入手するのも困難だったし、セリフなどの翻訳も行っていたのは得てしてファンだった。日本から持ち帰ったもの、あるいはジャパン・タウンなどで入手したものは羨望の眼差しで見られたものだ。当時はコレクターたちのサークル活動だけで扱われるようなものだった。それが今日では、Crunchyroll、VIZ Media、 AniplexやThe Good Stuffなどあちこちでコンテンツが入手できる。イベントもよりソーシャルな性質を帯びていて、なかでもコスプレは大人気だ。〈オタク〉といってしまうとそのイメージはPCと山積みにされた漫画本のある部屋に閉じこもる子供、のようなものかもしれないが、USのコンベンションではアニメ・ファンは楽しいことが大好きなソーシャルな人々で、アニメへの愛情を包み隠さず思い切り浮かれて騒いでいる。〈コスプレ〉という言葉そのものは、出版・映像プロデューサーの高橋信之がお気に入りのキャラクターの衣装を身にまとったSFファンを目にして1983年に生み出したものだが、コスプレをUSで広めたのはカルトSF番組「スター・トレック」のファンだとされ、その文化は今日まで受け継がれている。昨今ではオフィシャル・スポンサーがついたり、あるいはコスプレ大会に参加して賞金を稼ぐ〈コスプレのプロ〉になる者もいる。今年の〈アニメエキスポ〉のコスプレ大会は賞金$3,000(約30万円)で、どの作品もかなり凝っていた。とはいえ、やはりコンベンションでの醍醐味は競い合うことよりも楽しむこと。衣装の数から見るに、おそらく現在一番人気のアニメは「進撃の巨人」だろう。一方で、往年のアニメたちもまだまだ人気は衰えておらず、「ポケモン」、「NARUTO-ナルト-」や「セーラームーン」などの姿もある。既製品の衣装やアクセサリーももちろん存在する。また、たとえばポケモンのキャラクターであればジャンプスーツのような形状が多いが、来場者の中にはセクシーで露出度が高いピチピチの衣装を好む人もいるわけで、引き締まった身体に自信たっぷりの若い女の子はアニメ「キルラキル」のなかでももっとも露出度の高い衣装で参加していたし、マッチョな男子たちは水泳アニメ「Free!」の登場人物さながら水着やバスタオル一丁で歩き回り、撮影陣をにぎわせた。
公式集計によると、昨年北米で開催されたアニメ・コンベンションの数は実に379本。テキサス州だけをみても、サン・アントニオで開催される来場者数11,000人の〈San Japan〉、1992年から続いている〈AnimeFest〉、ハロウィンの時期である10月末にガルベストンで開催され、すでにチケットが完売している〈Oni-Con〉、来期の来場者数は7,000-8,000人を見込まれているオースティンで開催予定の中規模コンベンションの〈IKKiCON〉、ヒューストンで開催され今年度は約20,000人の来場者数を記録した 〈Anime Matsuri〉や、全米6位の記録となる22,000人近くの来場者数を誇り今年25周年を祝ったダラスでの〈A-Kon〉など、挙げだすとキリがない。テキサスのなかでも聞いたこともないような町でもたくさん開催されているし、テキサスにとどまらず全米における現象と言えるだろう。
〈アニメエキスポ〉は実にすばらしかった! あれだけの人、アニメと熱気! ファンが集まっている場所にほかのコンベンションの関係者も集まり、ゲストも送り込まれ、ベンダーも熱心な顧客との取り引きはやる気満々。にもかかわらず、不参加が目立ったのは日本のアニメ関連会社たちだ。日本からの参加人数の明らかに減少しているし、国内のアニメ/漫画市場もかなりその熱が冷めてきているようだ。これまで日本のコンテンツ・ホルダーは、以下の3点のうちのひとつは必ずやってしまっている。1)権利許諾をしなかった(それゆえ、視聴者を違法入手やほかの娯楽に追いやった)/2)USの企業に使用権を与えた(しかも契約をよく理解しないまま取り引きしたか、あるいは長期のライセンス契約ではなく、権利を売りとばしてしまった)/3)関連子会社に使用許諾をした(ものの、あまりに条件が厳しすぎてその関連子会社の採算がとれる状況ではなかった)。アメリカ(そこにはカナダや中南米も含む)の市場はデカい。とてつもなくデカいうえに、日本のアニメに強く喰いついている。どうか日本の企業のほうでこの将来性を享受できるよう、自らの立ち位置を見直してほしいものだ。
アニメと漫画はそのほかの多くの業界にも貢献できる。ゲーム、カード、キャラクター・グッズ、衣装、映画などはその一部でしかない。実写版などは当たり外れもあるが、たとえばトム・クルーズの最新映画はライトノベル「All You Need Is Kill(映画原題:Edge Of Tomorrow)」を実写化したものだし、「タイタニック」や「アバター」などの監督、ジェイムス・キャメロン氏は木城ゆきと作のSF格闘漫画「銃夢(ガンム/USではBattle Angel Alita)」のライセンス許諾を受けている。名作「AKIRA」などは2002年以降、幾度となく実写化の構想が持ち上がっては立ち消えになっている。こういった直接的なビジネス関与だけではなく、和食、日本への旅行や日本のファッションや言語への関心の啓蒙など、間接的な影響も考えられる。
〈アニメエキスポ〉は、USにおけるアニメへの莫大な熱意を感じられる、この上ない機会だ。日本のアニメ制作者や制作会社がこのブームを維持し、今後も持続可能なビジネスにしていけるかは、しかしながらまだ未知数だ。