トラップ~エモ・ラップや多様なエレクトロニック・ミュージックを吸収したサウンドと、時に痛みを感じさせるヴォーカルをもって、モダンなセンスを備えたポップ・アイコンとしての頭角を現してきたシンガー・ソングライター/トラックメイカーの4s4ki。彼女が約1年のインターヴァルで新たなオリジナル・アルバム『Castle in Madness』を発表する。先行して配信リリースされていた5曲と新曲7曲を収めたフルサイズのメジャー・デビュー・アルバムだ。

4s4ki 『Castle in Madness』 スピードスター(2021)

 その勢いを物語るトピックとして、彼女に共鳴した海外勢とのコラボレーションが挙げられるだろう。オーストラリアの女性アーティスト、ジァニを迎えた“FAIRYTALE”は鋭利な電子音とヴォーカルが飛び交うトラップ・チューン。NYのマルチ・プレイヤー/プロデューサーのパペットとの共作による“gemstone”ではオルタナ~エモ的なエッセンスを導入したパワフルなサウンドを轟かせている。LAのラップ・シンガー、スマートデスとの“ALICE”はラウドなギター・リフをフィーチャーしたナンバーだ。

 こうした海外勢との楽曲に顕著に現れているパンキッシュなトーンやオルタナなバンド・サウンドのテクスチャーが、これまでとは異なる新たな色調をアルバムに付与している。随所で鳴り響く90年代マナーのブレイクビーツも、そんなアルバムの性格を強調するように機能。ここで展開されているサウンドは、近年浮上してきたいわゆるハイパーポップの文脈に連なるものと位置付けられるだろう。その攻撃的な音をもってして、4s4kiは持ち前のポップセンスをより先鋭的に研ぎ澄ませているように感じられる。

 本作で初出となる新曲においてもアグレッシヴなスタンスは通底している。Spotifyの海外公式プレイリスト〈ハイパーポップ〉に選出された“Sugar Junky”では野太いエレクトロニック・ビートを脈打たせ、“OBON”ではチップ・チューン流儀の電子音をビキビキと歪ませて鳴らす。活動初期からサポートを得ていたという釈迦坊主をフィーチャーした“天界徘徊”は、彼女のキャリアにおいても意義深いナンバーだろう。ストレートなラップ・チューンに落とし込むことを回避するかの如く、両者のフロウが不穏なトラックと溶け合うアブストラクトな仕上がりがおもしろい。

 そうした攻めたサウンドと拮抗する存在感を示すのが、他ならぬ4s4ki自身の歌と言葉であり、シンプルに歌にフォーカスした楽曲も健在だ。maeshima soshi、KOTONOHOUSE、gu^2というお馴染みの面々がサポートする終盤のメロディアスなポップス群がアルバムのクライマックスを担っていて、とりわけオーセンティックなバラード“kkkk”のプライヴェートな空気を濃密に湛えたリリックに胸を打たれる。

 ポップの臨界点に迫るようなサウンドを振り回しながらも、4s4kiは一貫して〈若い世代特有の危うい心象を掬い上げる〉という普遍的な歌を紡いでいる。そうした表現に立ち向かう姿勢やマインドの部分から見ても、先述したハイパーポップのムーヴメントとの共振が窺える点も興味深いが、同時代のグローバルなサウンドのフォーマットを媒介にしつつ、彼女にしか作り得ない世界をこれまで以上に力強く提示してみせたことこそが本作のいちばんの成果だろう。ここでは4s4kiならではの筆致によるメロディーや言葉、リズムが形作る繊細なメランコリーが美しく鳴り響いている。

 


4s4ki
98年生まれ、東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター/トラックメイカー。舞台の音楽制作などに携わったのち、2018年3月にアサキ名義で初ミニ・アルバム『僕はバカだよ。』をリリース。翌2019年には現名義となり、自身のレーベル・SAD15mgよりEP『NEMNEM』を発表。2020年は4月に配信アルバム『おまえのドリームランド』、配信EP『遺影にイェーイ』、ファースト・アルバム『超怒猫仔/Hyper Angry Cat』を送り出す。2021年は3月に配信EP『UNDEAD CYBORG』を発表後、4月に“FAIRYTALE feat. Zheani”でメジャー・デビュー。このたび、ニュー・アルバム『Castle in Madness』(スピードスター)を7月7日にリリース予定。