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©2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson
©2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

 これは、20億年におよぶ人類史が無に帰して、そしてもう一度始まりへと円環を描くという壮大なスケールの物語である。宇宙にどれだけ地球と同じような惑星があるのか、知的生命体が存在するのか、といった問いが、宇宙の広大さや時間的スケールの文字通り天文学的な大きさによって、検証不可能でありながら、可能性を保持し続けているように、20億年という途方も無い時間とその移り変わりは、それすらも星々の始まりと終わりの、そのわずかなひとときの間に、ごく一部の星に生じた出来事であるという。それは、ある人類史であり、ある宇宙史でもある。ある宇宙の終わりの到来によって、ある人類が滅亡する。そして、そこから宇宙の一生よりもさらに長い無の時間が続く。その前に、人類は、別の宇宙の(銀河系の最も有望な星域)星々へと新しい人類の種をまき、そうして、人類が継承されて行く。

 この語り部である20億年後の人類は、ひとりであるのか、それとも集合意識のようなものなのか、それはわからない。ただ、その語り部は、現在の私たちを助けると言い、そしてそれが自分たちを助けることになるのだと言う。その一方で、「過去の出来事は未来から影響を受けているかもしれない」とも語られる。過去を最善の状態に導くことが、未来を変えることになる(ゆえに未来から過去を変える)という、錯綜した因果関係。未来を救うことができるのは過去(現在)である、という考え方は、どこかタイムトラベルもののSFのようだ。しかし、現在の気候変動や環境問題など、現在を考えているだけでは解決し得ない問題に直面している現在の私たちには、とても切実なものにも感じられる。

 1930年に発表された20億年後の世界の物語を現在に召喚しようとしたヨハンの意図がいかなるものであったのかを知るすべは、もはや私たちには残されていない。しかし、それはどこかヨハンが到達した境地からのメッセージのようにも感じられるのだ。

 


CINEMA INFORMATION
映画「最後にして最初の人類」(原題:Last And First Men)
第70回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門正式出品

監督:ヨハン・ヨハンソン
ナレーション:ティルダ・スウィントン
原作:オラフ・ステープルドン著「最後にして最初の人類」
プロデューサー:ヨハン・ヨハンソン/ソール・シグルヨンソン/シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン
撮影:シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン
音楽:ヨハン・ヨハンソン/ヤイール・エラザール・グロットマン
©️2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson ©Sturla Brandth Grøvlen
2020/アイスランド/英語/70分/ヨーロッパビスタ 1.66:1/5.1ch
配給:シンカ
2021年7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他順次公開
ヒューマントラストシネマ渋谷は音響システムodessaでの上映となります。ぜひ〈映画館で観るべき音響体験〉をご堪能下さい。