「イージー・ライフというバンド名に大した理由はなくて、誰もが楽に生きたいけど、その術を知っている人は少ない。だからこそ、バンドをやるうえでの核になるジレンマとしていいんじゃないかと思った。〈イージー・ライフ〉という響きも音楽と共通したものがある、というくらいかな」。

 バンド名の由来に付いてそう語るのはマレー・マトレーヴァーズ。マルチ・ミュージシャンの彼がフロントマンを務めるイージー・ライフは、英レスター出身の5人組バンド。ヒップホップやソウル、ジャズ、レゲエ、アフロなどが融和する今風の世界観を備えたインディー・ポップ・バンドで、滑らかなヴォーカルと独特なサウンドが印象的な彼らの楽曲は、メロウやチル、レイドバックといった言葉が似合う心地良い脱力感を纏っている。

 「ベースとサックスのサム(・ヒューイット)とは同じ学校に通っていて、昔からずっと同じバンドで演奏してきた。ジャズ・バンドとか吹奏楽部とかね。子どもの頃から音楽で繋がっていて、卒業後もバンドを一緒にやっていたんだ。ドラマーのキャス(オリヴァー・キャシディ)とギターのルー(ルイス・ベリー)も子どもの頃から一緒にバンドをやっていた。僕のルームメイトがルーを紹介してくれて、キャスとも知り合った。キーボードのジョーダン(・バートルズ)は、地元のちょっとした有名人で、スペシャルズやウェイラーズともツアーしたことがあるバイ・ザ・リヴァースというレゲエ・バンドのドラマーだったんだ。彼が主催しているディスコ・パーティーにみんなで行った時に、酔った勢いでジョーダンを仲間に引き込んだ。〈もう一人メンバーが要るね。キーボードが必要だ〉とか話してて、ジョーダンはキーボードなんて弾いてなかったけど、クールでノリもいいし。正直、当時は楽しけりゃいいと思ってたから、ノリが合えば誰でもよかったんだ。そこまで真剣に考えてなくて、好きな音楽を楽しくやれればよかった」。

EASY LIFE 『life’s a beach 』 Island/ユニバーサル(2021)

 そうして2017年に現在の形になり、翌年に初のミックステープ『Creature Habits』をリリースした5人だが、アイランドと契約してからはBBCの〈Sound Of 2020〉に選出されるなど一気に躍進。2020年頭のミックステープ3作目『Junk Food』では全英7位を記録している。ただ、その後に訪れた長いロックダウン期間は、バンドの核となるマレーの創作にも大きな影響を及ぼした。

 「創作活動という点においては充実した時期になったよ。ただ、そうは言いながら、自分は前からずっとラップトップで音楽を作ってきたし、自分一人で作ることも多かった。むしろスタジオに行かなくていい口実ができたくらいだ。凄くいいマイクを買ってアルバムのヴォーカル・パートはすべて自分の部屋で録音したし、レコーディングの技術的な部分をより掘り下げることができて楽しかった。そういう実務的な面はよかったんだけど、何が辛かったかって、家から出られないという状況だ。それは誰もが理解、共感できることだろう。バンドでアルバムを作ろうとしてるのに、集まって演奏できないし会うこともできなくて、いつもより自分の直感に頼るしかなかった。頭が変になりそうだったよ。確実に言えるのは、もし状況が違えばまったく違うアルバムになってたってことだね。『Life Is A Beach』というタイトルにもしなかっただろうし、収録曲も違っていただろう。別にロックダウンについての曲ばかりだと言ってるわけじゃないよ。誰もが大きな変化を強いられたし、当然のように作る音楽にも影響はあった」。

 かの“Life’s A Bitch”に着想を得たジョークにも思える『life’s a beach』というタイトルは、「これから雨が降るかもしれないけど、イージー・ライフが太陽のような絶対的な存在になる」という意味を込めて名付けられたそうだ。バンド名ともども楽観主義的なネーミングにも思えるが、不眠症や人間関係、金銭問題といったリアルな詞世界が裏にある点も彼らが人気を得る理由なのだろう。待望のオリジナル・ファースト・アルバムとあって、鬱病を主題にしたベーコンの共同プロデュース曲“a message to myself”をはじめ、アレサ・フランクリン使いの“daydreams”、さらにはTikTokでバズっているという“nightmares”などこれまでのキャッチーな代表曲が満載されている。すでに全英2位を記録している本作をもって、彼らの簡単じゃない心地良さはさらに広く浸透していくことだろう。

 


イージー・ライフ
マレー・マトレーヴァーズ(ヴォーカル/シンセサイザー/キーボード/トランペット)、サム・ヒューイット(ベース/サックス)、ルイス・ベリー(ギター)、オリヴァー・キャシディ(ドラムス/パーカッション)、ジョーダン・バートルズ(キーボード/パーカッション)から成る、英国はレスター出身のポップ・バンド。地元のパブで2017年に結成され、チェス・クラブからファースト・シングル“Pockets”をリリースする。翌年にアイランドと契約。コンスタントに音源を重ね、BBCの〈Sound Of 2020〉ノミネートを経て、2020年1月のミックステープ『Junk Food』が全英7位のヒットを記録する。このたびファースト・アルバム『life’s a beach』(Island/ユニバーサル)をリリースしたばかり。