田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。正直、今週はあまり話題性のあるニュースがなくて……(苦笑)。仕方がないので、この一週間でちょくちょく発表されていた情報をふまえて、今年のフェスの動向について話しましょうか」
天野龍太郎「だいぶ適当な始め方ですね(笑)! まず先週、アメリカのビッグ・フェス〈コーチェラ〉が2022年4月まで延期されることが発表されました。1月にはイギリスの〈グラストンベリー〉の中止が2年連続で決まったし、やっぱり今年もフェスの開催は難しいんだろうなと思いました。TOWER DOORSの小峰崇嗣くんが2019年にレポートを書いてくれた、インディー・バンドの登竜門的なロンドンのフェス、〈グレート・エスケープ〉は第1弾ラインナップが発表に。ただ、今年はオンラインでの開催です」
田中「そんななか本日、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’21〉の開催が発表。今年は国内アーティストのみが出演します。今週、SMASHやクリエイティブマンなど、日本のフェス事業者がフェスティヴァルの開催に向けた情報共有やガイドラインの作成を行うための共同団体、〈野外ミュージックフェスコンソーシアム〉の設立が発表されたばかりなので、このアナウンスはうれしいですね」
天野「というわけで〈フジロック〉には、〈PSN〉で取り上げているアーティストは出演しないと思いますが、いち音楽ファンとしてはどんなラインナップになるのかが楽しみです。4月には出演者の発表もあるみたいですし。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
John Grant “Boy From Michigan”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はジョン・グラントの新曲“Boy From Michigan”! 6月25日(金)にベラ・ユニオン(Bella Union)からリリースされる待望のニュー・アルバム『Boy From Michigan』のタイトル・トラックです」
田中「ジョン・グラントは米ミシガン生まれ、コロラド育ちのシンガー・ソングライター。もともとはサーズ(The Czars)というバンドのフロントマンで、ソロ・デビューは2010年。ゲイであり、またHIVポジティヴであることもオープンにしています。『Pale Green Ghosts』(2013年)でのブレイク以降、そのアイデンティティーを表現した歌やシンセ・ポップ・サウンドが高く評価されていますね。日本ではフィギュア・スケーターの高橋大輔さんが彼の楽曲を使ったことが話題になりました」
天野「ジョン・グラントといえば、2016年のMikikiのインタビューや、2019年に来日したときに田中宗一郎さんと木津毅さんが対談した記事がおもしろいので、ぜひ読んでください。この新曲は、まずカヴァー・アートと〈ミシガンから来た少年(Boy From Michigan)〉という曲名が最高。11歳のときの体験をもとに子どもから大人への移行を表現している、というところも素晴らしいです。プロデュースはケイト・ル・ボン(Cate Le Bon)。彼女とグラントは共演経験があるのですが、この組み合わせはちょっと驚きました。それも納得の仕上がりで、ディープなシンセ・ポップとサックスなどの生楽器との絡み合いが感動的。文句なしの〈SOTW〉!」
black midi “John L”
天野「ブラック・ミディの新曲“John L”には度肝を抜かれました。アルバム『Schlagenheim』で見事なデビューを飾った英ロンドンでいまもっともアツいバンド、ブラック・ミディが、5月28日(金)に待ち望まれたセカンド・アルバム『Cavalcade』をリリース。これは、同作のリード・シングルです。どうなることかと思っていたのですが、やっぱり桁違いの才能を持ったバンドだなと、この“John L”を聴いて確信しました。すごすぎ!」
田中「う~ん……。僕は正直、プログレっぽくてダサいなと思ったんですよ。ブラック・ミディについてはもともとピンときていなかったんですが、いよいよ苦手かも……」
天野「えっ!? 〈ダサい〉ってひどいな……。いやいや、最高じゃないですか。だって、まるで70年代前半のキング・クリムゾンが『Larks’ Tongues In Aspic(太陽と戦慄)』から『Red』にかけて展開したヘヴィーでダークな曲をぎゅっとコンパクトにして、それを80年代のキング・クリムゾンが『Discipline』の頃のマナーで演奏して、さらにノーウェイヴの息吹を吸い込んだかのような重さと狂気とタイトさが一緒くたになった、めちゃくちゃヤバい曲じゃないですか!! この素晴らしさがわからないなんて……。サックスやヴァイオリン、ピアノの音の扱い方もイカれていて、ギター・バンドとしての極点と新たな可能性を感じますよ!!! いや~、ブラック・ミディ、超頼もしいですね。こんな新境地に至るとは思っていませんでした。新作『Cavalcade』が楽しみでなりません」
Ric Wilson “Woo Woo Woo”
天野「3曲目はリック・ウィルソンの“Woo Woo Woo”。彼はシカゴ出身のラッパーです。テラス・マーティン(Terrace Martin)とのコラボレーションEP『They Call Me Disco』(2020年)が話題になったのですが、なんといってもCHAIのシングル“チョコチップかもね”(2021年)にフィーチャーされたことが話題でしたよね。メロディアスなラップが魅力的で、これから日本でも人気を高めていきそうです」
田中「ウィルソンの流れるようなフロウは、ディスコやダンス・クラシックの要素が色濃いダンサブルなサウンドとの相性が抜群ですね」
天野「そうですね。あと、この4つ打ちに亮太さんがハマるのもよくわかります(笑)」
田中「まあ、そうなんですけど(笑)。今回の“Woo Woo Woo”は、カラっと乾いた質感のビートと温かな音色のシンセサイザーによるディープ・ハウス調。1分37秒という短い尺の楽曲なので、〈もっと長くてもいいのになー〉と思ったのですが、このパッと終わる感じがイマっぽいんでしょうね。〈くだらない話をさせてくれよ〉と歌うリリックでは、ポリティカル・コレクトネスを配慮すべき時代において〈もっと自由に表現したいぜ〉という気持ちを歌っています」
Iceage “Shelter Song”
田中「デンマークはコペンハーゲンから登場し、2010年代のインディー・ロックのカリスマとなったアイスエイジ。彼らはマタドールからメキシカン・サマー(Mexican Summer)に移籍して、5月7日(金)にニュー・アルバム『Seek Shelter』をリリースします。メキシカン・サマーといえば、サイケデリックやエクスペリメンタルなサウンドがレーベルのカラーであり、チルウェイヴ以降のUSインディーを牽引していた存在だけに、この組み合わせにはかなり興奮しました」
天野「アイスエイジは前作『Beyondless』(2018年)で、カントリーやブルースといったアメリカン・ルーツ・ミュージック志向を強めていたので、バンドのキャリアを考えると、今回の移籍は興味深いですよね。新作からは、これまでに“The Holiding Hand”“Vendetta”と2曲のリード・シングルが発表されています」
田中「どちらの曲もよかったですよね。アルバムのプロデュースをソニックブームが手掛けているそうで、サウンドはこれまで以上にサイケデリックな印象。この“Shelter Song”は、エリアス・ベンダー・ロネンフェルト(Elias Bender Rønnenfelt)の弱さや脆さをも赤裸々に見せているかのような歌声と、ダルなガレージ・ロック・アンサンブルがたまりません。ゴスペル・クワイア調のコーラスも効いていて、聖俗あわせ持っているかのようなロック・バラード。一時期のプライマル・スクリームというか、ボビー・ギレスビーが持っていた狂おしいまでに退廃的なロマンティシズムを感じてしまいますね」
天野「僕は、良くも悪くもローリング・ストーンズやオアシスみたいな大味でブルージーなムードを感じて、〈アイスエイジもデビューから10年以上経って変わったなあ〉と思いました(笑)。アルバムはどんな作品になっているのでしょうか?」
Basside & SOPHIE “NYC2MIA (SOPHIE Remix)”
天野「キュー・リンダ(Que Linda)とカロ・ロカ(Caro Loka)のデュオによるベイサイドは、〈bass〉と〈bayside〉をかけている名前がいいですよね。彼女たちのサウンドはマイアミ・ベース。2016年のライブ映像なんかを観ると、ノリが最高で笑顔になっちゃいます」
田中「この“NYC2MIA (SOPHIE REMIX)”は、曲名にあるとおり、原曲を1月に急逝したソフィーがリミックスしたもの。もともと、〈Sylvia Rivera Law Project〉というジェンダーの自由を司法の面で助ける団体へのチャリティーとしてBandcampで先行販売されていたんです。それが今回、Spotifyなどのストリーミング・サーヴィスでも聴けるようになりました。彼女たちは、4月2日(金)に“NYC2MIA (SOPHIE REMIX)”を収録した新作『FUCK IT UP EP』をリリースするそうですね」
天野「そのEPをソフィーがプロデュースしているんですよね。なので、ソフィーが亡くなってから彼女ががっつりと携わった初めての作品として注目されています。“NYC2MIA (SOPHIE REMIX)”に話を戻すと、〈NYからマイアミへ/ブラはなし、ペニスもなし〉というフレーズが繰り返されていて、まずそこが最高(笑)! ソフィーらしいインダストリアルな電子音が無骨なマイアミ・ベースのノリと見事に合っていて、ベイサイドの魅力を盛り立てているなと思いました。ソフィーが亡くなってしまったことに僕はいまだに心を痛めているのですが、こんな愉快な置き土産を遺してくれたことはうれしいですね」
Finesse “Its OK”
天野「UKドリルの新星フィネスのデビュー・シングル“Its OK”です。彼はロンドン生まれで、ナイジェリア系だそうです。イントロの悲しげなストリングスの音色やせき込み、うねるベース、細かく刻まれるハイハットなど、UKドリルらしいダークでヘヴィーな世界を奏でるサウンドがかっこいい!」
田中「ストリートの世界での浮き沈みを描くリリック、パーカッシヴに〈Its OK〉と吐き出すコーラスの節回し、ダークなファースト・ヴァースからだんだんと熱を帯びていくラップなど、魅力と実力はじゅうぶん。詳しいことはわかりませんでしたが、NBF・ワールド(NBF Workd)というレーベルの最初のアーティストであり、現在のところ唯一のメンバーであるようですね。まだまだ注目されていないようですが、UKラップに興味のある方は、今後もフィネスとNBF・ワールドの動向をチェックしたほうがよさそう!」
easy life “a message to myself ”
田中「レスター出身の5人組、イージー・ライフ。彼らのことは、2020年の初頭に掲載した〈2020年期待の洋楽アーティスト50!〉で紹介したんですよね。ただ、去年アルバムを出すかと思いきや、リリースされませんでした……」
天野「とはいえ、ミックステープ『Junk Food』が全英チャートのトップ10に入ったり、シングルも数作出していたりと、存在感はじゅうぶんありましたよね。そんな彼らが、ついにファースト・アルバムをリリースすることに。『Life’s A Beach』が6月4日(金)にリリースされます!」
田中「この“a message to myself”は、アルバムの冒頭を飾るナンバーだそうです。約2分間の短い曲ですけど、バロック・ポップを基調にアフロビーツを隠し味として足したようなサウンドがおもしろい。歌詞は〈自分らしさを大切にすること〉がテーマ。彼らの魅力はバンド名のとおり、聴き手を〈take it easy〉という気持ちにさせてくれることですね。アルバムが楽しみです」
Grace Weber feat. Chance The Rapper “Thru The Fire”
天野「ウィスコンシン出身でLAを拠点に活動するR&B SSW、グレース・ウェーバーは、チャンス・ザ・ラッパーの“All We Got”(2016年)の作曲者の一人として知られています。そのチャノが参加するソーシャル・エクスペリメントやヴィック・メンサ、トーキョー、ピーター・コットンテール、マセーゴ、フランシス・アンド・ザ・ライツなどなど、チャンス・ザ・ラッパー周辺のアーティストとの共演や制作、作曲が多いんですよね」
田中「どうりでチャンス・ザ・ラッパーっぽいサウンドだと思いました! もちろん、この“Thru The Fire”には彼が参加していることもあるのですが。分厚く歌い上げるコーラス・ワーク、オルガンやワウ・ギターを使ったアレンジなど、ゴスペル風のメロディーやかなりファンキーなプロダクションが力強いですね」
天野「僕は、チャノのラップが『Acid Rap』(2013年)や『Coloring Book』(2016年)の頃の勢いやみずみずしさを取り戻している感じがして、めちゃくちゃいいなって思ったんですよね。彼のこういうノリのラップ、ひさしぶりに聴けてよかったな。作曲などで活躍しつつ、地道にソロでシングルを発表し続けているウェーバーは、今年正式なデビュー・アルバムの発表を予定しているそうです。2000年代後半から活動していていくつか作品を発表しているのですが、どれもほとんど廃盤状態。昨年のEP『How Did We Get Here』が素晴らしかったので、満を持してリリースされるアルバムに期待したいですね!」