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質量では測ることのできない何か

 前述の〈遮二無二〉でも全公演で披露された青春パンク調のこの“BRAVER”、失敗や挫折を恐れることなく、勇気をもって夢に向かって前進する気持ちを描いた歌詞は、甲子園にかける高校球児たちの想いにも重なるものだが、世界一のVRアイドルをめざして〈道なき道〉をがむしゃらに突き進むえのぐが歌うことで、その覚悟の強さとエモーショナルな重みがグッと増す。歌詞の最後の一節〈未来描いてゆけ 僕ら BRAVER〉の箇所で、メンバー全員が胸元を叩く仕草をし、最後にゆっくりと拳を突き上げると、バンド・メンバーたち、そして会場中のオーディエンスもみんな一様に拳を高々と突き出し、互いに心を重ね合って大団円を迎えた。

 えのぐ公式Twitterのツイートによると、彼女たちは〈「仮想現実に存在するアイドル」ではなく「仮想を現実に変えるアイドル」〉だという。なるほど、バーチャルな存在の彼女たちだが、ステージ上には質量では測ることのできない何か――意志や魂のようなものが存在していることを、今回のライヴで強く実感できた。AR(拡張現実)やMR(複合現実)などの技術革新が進むなか、VRアイドルとしてリアルに成長していくえのぐの活動を追いかけていけば、仮想と現実の垣根を越えた、前人未到の未来を見ることができるかもしれない。