青空に舞う洗いざらしのように晴れやかな12枚目のアルバム! 赤裸々な言葉で人生の折々を真っ向から表現してきたラッパーは、いま何を考えている?

思わぬ言葉に出会える喜び

 ありのままの自分と自身を取り巻く諸々を見つめ、それを曲に変えてきたラッパー、神門(ごうど)。全曲ラヴソングで綴ったファースト・アルバム『三日月』(2007年)からかれこれ16年余り、彼の音楽はまさにその生き様とも軌を同じくしてきた。微に入り細に入り情景を描き出し、心の機微に触れるそれは、年を経るごとに生身に近づき、深さを増していく。「いま聴くと〈こうは書かへんな〉っていうラインはもちろんあるんですけど、その時々で〈もうこれ以上のものはない〉っていう感覚でやってきたし、毎度毎度、次回これ超えるん無理やろ?って思いでアルバムを出してきました」――これまでに残してきた作品はアルバムだけでも11枚。その制作活動の中で彼に変わったところがあるとすれば、それはレコーディングへの取り組み方だろう。

 「6枚目の『苦悩と日々とど幸せ』(2014年)まではほぼほぼ一発録りか、〈イメージ通りのテイクが録れたらOK〉って感覚でした。ある時まで僕はレコーディングを通して、自分の書いたものが100%の状態から削がれていく感じがあったんです。だけど、8枚目の『親族』(2017年)で、書き上げたものをさらに先に進めることもできるんやって知って、その経験からレコーディングも追い込むようになりました」。

 理想の100%にいかに近づくかの作業から、理想の上を行く100%+αを見い出す作業へ。自身12枚目のアルバム『半袖』もまた、そんなプロセスを通して完成を見た。音からも言葉が生まれる、「音に言葉をもらえる」制作を通じて、アルバムはいわば彼の予期せぬ「もう一つの完成形」をも呼び込み、産み落とされている。

 「書き進める前のイメージ通りになったらまずその曲はボツなんです。トラックの中にある起承転結にできるだけ沿わせて書くことで、書いてるときに〈飛躍する〉っていうか、自分自身がビックリすることがあるんですよ、〈あー、こんな書き方ができるんや〉って。そのぶん大変ではあるんですけど、そういう思わぬ言葉に出会える喜びのほうが大きいですね」。

 レコーディングに対する神門のこだわりは実際の作業面でもかなり異例と言えるかもしれない。話は続く。

 「基本アルバムの全曲が出来てから録りはじめます。そして、1曲ずつ録っていって各曲のOKテイクが出揃ったタイミング。その時、身体がOKテイクが録れる状態になってるわけで。そこから、1曲目から最後の曲までを曲順通りに並べて一気に録るんです。曲と曲の間で休憩は入れず、それこそCDの曲間ぐらいで続けてく。最初にその録り方をした『親族』では23回その作業を行いました。この方法で録ると、うまく録ろうという邪念が消えて、OKテイクにヤスリがかかってくっていうか、言葉が滑らかになっていくんです」。