2000年代から音楽シーンで活躍するラッパーの中でも、タイラー・ザ・クリエイターは孤高という形容が特に似合う存在だと思う。鳴らしたい音に忠実な姿勢は、インスタントな流行を生まない一方で、時代にとらわれない興味深い作品を築くことに繋がっている。その魅力はこの最新アルバムでも楽しめる。ヒップホップはもちろん、ソウル、ジャズ、レゲエといった要素を絶妙にブレンドした音楽性は優れたポップ・ミュージックとして筆者の耳に届き、多彩なリズムとグルーヴは聴き込み甲斐がある。ペルソナまで駆使してアルバムのコンセプトを定める手法は、デヴィッド・ボウイを想起してしまった。またひとつ、タイラーはラッパーの枠に収まらない表現者への階段を登ったことがわかる良作だ。