説明不要の大傑作『After Hours』によって自身のピークをまたも更新したウィークエンド。愛憎や狂気の入り乱れる濃密な感情を独自の美意識でオンエアした『Dawn FM』が導く夜明けの光景とは……
架空のラジオ局
2020年に発表した『After Hours』が好セールスを記録し、高評価を得たにもかかわらず、同作に関連した楽曲などがグラミー賞にノミネートされなかったウィークエンド。それを不服とし、グラミー賞をボイコットする声明まで出して世間をざわつかせたことは記憶に新しい。一方で、昨年2月に行われたNFLスーパーボウルのハーフタイムショーでは、ヒット曲連発の壮大なパフォーマンスでスタジアムを熱狂させた。グラミー賞に失望しようが、2021年のエイベル・テスファイは、その後もドージャ・キャットからカニエ・ウェストまで数々のコラボを行いながら忙しく動き回っていた。
そうした活動が彼とリスナーにとってハーフタイム・ショーのアフターアワーズだとするなら、濃密な余韻に浸った夜の後にやってくるのは夜明けである。かくして年明け早々にサプライズ発表した新作のタイトルは『Dawn FM』。架空のFMラジオ局(103.5 Dawn FM)で俳優のジム・キャリーがDJとして案内役を務めるアルバムのコンセプトについてウィークエンド本人は、プレスリリースでこう発言している。
「リスナーが死んでいる状態をイメージしてほしい。彼らは煉獄の状態にある。トンネルの先にある光にたどり着くのを待ちながら渋滞に巻き込まれているような。その間、車中ではラジオが流れていて、司会者があなたを光へと導き、あの世へと移行させてくれる」。
〈天国への階段〉に近い状態だろうか。ジム・キャリーのナレーションが登場する冒頭の表題曲から異空間に誘い込むようで、流れる空気は穏やかであり不気味でもある。FM局のアイデアは、件のハーフタイムショーで音楽監督も務めたダニエル・ロパティンがOPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)名義で架空のラジオ局をテーマに作った『Magic Oneohtrix Point Never』(2020年)に倣ったものだろう。“Every Angel Is Terrifying”の冒頭でリルケの詩が引用されているのも、ウィークエンドが客演したOPN“No Nightmares”のMV制作時にリルケの詩をモチーフにしていたことに由来。ロパティンは今回、マックス・マーティンと共に大半の楽曲でソングライティングとプロデュースを担当している。